■ 『佐伯×桜乃』(第10位)


 貝殻は海の音がするっていうけどさ。

 ふいに、静かな部屋に佐伯の声が響いた。
 あまりにも静かだったからついうとうととまどろみ始めていた桜乃は、佐伯の声で覚醒し、少し上擦った声ではいと返事をした。
 恥ずかしいからか、顔を僅かに伏せた彼女を微笑ましそうに見守りつつも、少年は話を続ける。

「俺は、いつでもどこでも海の音をさせられる貝殻を拾ったことがないんだ。」

 貝殻とはそういうものだとやはり認識していたのであろう。
 話を聞いた桜乃が、目を真ん丸くさせて本当ですかと聞いた。
 それに本当だよと答えて、佐伯はでもと話を繋げた。

「桜乃ちゃんからはいつでも桜乃ちゃんの音がするね。」


 後ろからぎゅっと抱きしめられて、桜乃は小さく抗議の声をあげた。



――――――――――――――――――――――――――

■ 『柳生×桜乃』(第9位)


 どうぞと声をかけられ、おずおずと車から降りた。
 流れるようにエスコートしてくれる彼とは違い、エスコートされている自分の動きはとてもぎこちない。

(仕方ないよ、エスコートされなれてないんだもん・・・。)

 そう言い訳しながらふと上を見てみると、暗めの茶色が視界に広がった。
 柳生さんの傘だ。
 濡れないようにと差してくれているんだろうけど、体が触れてしまう位置を保ったまま歩くのは恥ずかしかったので、彼が車のドアを閉めている間に少し距離をとってみる。
 けれど、すぐにそれに気がついたらしい柳生さんの手が、私の肩へすいと移動した。

 これじゃあもう逃ることは出来ないじゃないですか。

「恥ずかしいとは思いますが、少し我慢してくださいね。」

 優しい口調で諭すように言われて、再び羞恥心が芽生える。

(き、気付いてたんですね・・・。)


 私の彼は、恥ずかしいくらい紳士な人です。



――――――――――――――――――――――――――

■ 『跡部×桜乃』(第8位)


「・・・んだよ。」

 不機嫌なことを隠そうともしていない口調で、問われる。
 そんな彼に私は、なんでもないですと返す。

「なんでもないって顔じゃねーだろ。」
「そうですか?」

 自覚はあるけれど、わざととぼける。


 だって、嫌いな料理を頑張って食べている姿が可愛かったんですだなんて、プライドのかたまりみたいな彼には、とても言えないもの。



――――――――――――――――――――――――――

■ 『真田×桜乃』(第7位)


「待ってー!」
「こら、待て。」

 夕暮れ間近の砂浜に、私の弾む声と真田さんの困ったような声が響く。
 私達の視線の先には、黒い体毛を持った豆柴がいる。

 真田さんも私も、犬はもちろん他の動物も飼ってはいない。
 なら何故豆柴を二人で追いかけているのかといえば、飼い主である真田さんの従兄弟の家が諸事情で忙しい間のみ、真田さんの家でお世話することになったから。
 その話を聞いた私が一緒に遊びたいと言ったところ、最初は、

「俺は小動物には懐かれん体質だから、一緒には無理かもしれんぞ。」

 と、真田さんは渋い顔をしたけれど、真田さんの予想を裏切り、その豆柴(マメちゃんという)は真田さんに懐いてしまった。
 私は当然でしょうと言いたかったけれど、止めておいた。
 赤也さんに懐かれているから大丈夫だと思っただなんて、赤也さんに失礼すぎると思ったからだ。



――――――――――――――――――――――――――

■ 『宍戸×桜乃』(第6位)


 付かず離れずな位置をキープしながら歩いている宍戸さんの声が、私の話を止めた。
 彼の声はどことなく不機嫌そうだ。
 もしかして煩かったかなと不安になって謝ると、そうじゃねえとの返事。

「それ、融けてんだけど。」
「え、わあ・・・!」

 宍戸さん側の手に持っているソフトクリームが、いつの間にやら融け始めていた。
 ソフトクリームだから融けるのは当たり前だけど、今は冬なので油断していた。
 どうしてもっと早く教えてくれないんですかと恨みがましく言えば、普通気付くだろと一刀両断された。
 正論なので、ぐうの音もでない。

「てかそれ・・・!」
「あ、あわわわわわわ・・・!」

 話している間にも順調に融けていたらしく、乳白色の液体がコーンから溢れてくる。
 それが私の手をつたってきた後で、やっと私の脳は正常に働き始める。

(ティ、ティッシュ・・・!もしくはハンカチ・・・!)

 私がポーチからそのどちらかを出そうとした時、ふいに視界が左右に振れた。
 馬鹿か、と吐き捨てるように言った宍戸さんが、ソフトクリームを握っている私の手を自分の方へと引っ張ったのだ。

「・・・・・・あ。」

 べしゃ、という音をたてて、ソフトクリームがコーンごと地面に落下した。

 ソフトクリームが落ちたのは、宍戸さんが私の手を引っ張ったからではなく、一瞬宍戸さんの舌が私の手に触れた様な気がしたからだ。



前へ | 次へ