■ 『リョーガ×桜乃』(第5位)


 桜乃が家に遊びに来ている休日、俺はテレビを観ていた。
 テレビに興味なんてないが、桜乃が観てるから観ることにしたのだ。

 桜乃が観ているのは、韓国の連続ドラマ。
 正直面白いとは思わなかった(あらすじ知らないし)が、桜乃が熱心に観てることに興味が湧いて、CMの間にどんな話なのか聞いてみると、随分古めかしいドラマだということが判明した。

「姉の夫に恋する妹ねぇ・・・。」
「妹さんはお姉さんのことも好きだからとても悩んでいるのですが、相談できる人がいなくて・・・。」

 それが可哀相で、自分が相談相手になれればいいのにと思ってしまうのだ、と熱弁されたが、それでも、どこが面白いのかと疑問に思ってしまう。

「まどろっこしいことせずに、寝取っちまえばいいんじゃねーか?」

 冗談半分でそう提案すれば、顔を真っ赤にした桜乃にパンチをくらった。
 桜乃のパンチなんてへなちょこ以外のなんでもないが、じわりとくる痛みが意外に長引くのが嫌だった。

(・・・・・・早めに引くといいんだがなー・・・。)

 殴られた箇所を摩りつつ、ふと考える。
 あの三人は、少し前の俺達の関係に似ている、と。

 そう考えたら、このドラマも面白いような気がした。



――――――――――――――――――――――――――

■ 『裕太×桜乃』(第4位)


 裕太さんだと思った瞬間、その名前を叫んでいた。

「・・・竜崎?」
「はい。すごい偶然ですね。」
「ああ。・・・それにしても、良く俺だと分かったな。」

 裕太さんが不思議そうにそう訊ねてくる。
 帽子被ってるし私服だから違う人かもと、少し不安に思っていた私の心を見抜いているかのよう。

「そうですね・・・。少し不安でした。」
「だよな・・・。」

 俺、今日何度も宍戸って人に間違えられたんだけど。

 苦笑しながらそう言う裕太さんからは、どこか感情を押し込めているような感じを受けてしまう。

 ああ、それは駄目です。

「私は間違えませんから!」
「え。」
「不二先輩だって、由美子さんだって、絶対絶対間違えませんから!ちょこっとは不安になったりもするかもしれませんが、間違えませんから!」

 希望も込めてそう熱弁すれば、裕太さんが苦笑を零した。
 さっきと違って暖かい苦笑を。



――――――――――――――――――――――――――

■ 『日吉×桜乃』(第3位)


 それの前に立たされて、俺は流石に狼狽した。
 周りには爆発音やけたたましいブレーキ音、軽快な音楽が流れているが、俺の意識はすべて目の前のものに注がれている。
 目の前のもの、つまり、『プリント倶楽部』と書かれた機械に。

「や、やっぱり駄目、ですか・・・?」

 余程すごい表情で機械を凝視していたのだろう。
 俺の反応を気にしている竜崎が、すまなさそうに声をあげた。

 確かに俺は、このど派手な色をした機械で写真を撮ることは嫌だ。
 こういう煩い場所は嫌いだし、女の群れを見ることもその中に入ることも苦痛だ。
 しかし、竜崎が撮りたがっているということを、俺は知っている。

「・・・正直に言えば嫌だ。だが、なんでもやると言ったのは俺だ。」

 覚悟を決めて宣言すると、桜乃はぽかんとしたまま動かなくなった。
 俺は一刻でも早くここから去りたかったので、桜乃の手をとり列へと並んだ。
 そうした後にちらりと桜乃の様子を窺えば、彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 たまにだったら、こういうのもいいかもしれない。



――――――――――――――――――――――――――

■ 『千石×桜乃』(第2位)


 動く度に鎖が擦れて、じゃらと軽くなく重くもない音を出す。
 それを聞いて、手の平が鉄臭くなるんだよなってしみじみ思う。

「どう、桜乃ちゃん?」
「ど、どうって・・・!」

 俺の足の間に座っている桜乃ちゃんは鎖を握っているだけで精一杯らしく、発したのはその言葉だけだった。
 ブランコの二人乗りは初めてだって言ってたから、それも仕方がない。

(大体、俺が無理矢理乗せたようなものだしね。)

 桜乃ちゃんを悲しませたり怖がらせたりはしたくないけど、どうしても見せたいものがあったから、悩んだ末に強行突破することにしたのだ。

「ほら桜乃ちゃん、これこれ!」

 うきうきと弾んでいる声で叫ぶと、桜乃ちゃんが目を開けた。
 その際に彼女があげた、え、という少々間の抜けた声は、俺の声に釣られた証拠だろう。

「星空を泳いでいるような気持ちしない?」

 問いかければ、やっと嬉々とした声が聞けた。

「はい、そうですね!」



――――――――――――――――――――――――――

■ 『手塚×桜乃』(第1位)


「お風邪だそうですね。」
「ああ。だがもう大丈夫だ。明日からは学校に行くからね。」
「・・・まだ完全には直っていらっしゃらないのでは?」
「もう完全に直っとるよ。わしを年寄り扱いするな。」
「直りかけている時に無理をすると風邪がぶり返してしまうのは、ご老人だろうと若人だろうと同じだと思うのですが。」

 少し散らかってしまった書類をまとめつつも、手塚が間髪いれず返事をしてくる。

(つまり、老人扱いはしていないが、わしを老人だとは思っていると。)

 いらいらしてきたので、その理由をつくった手塚を睨む。
 が、当の本人は気付いていないかのように、小さくありがとうと言った。
 その視線は手塚の横にいる人物 ― わしの孫に注がれている。

「どうしたんだい桜乃。」

 いつの間にか部屋の中に入ってきていた孫に声をかける。
 茶は手塚が来てすぐに運んできてもらったし、その後に何か頼んだ覚えもないので、何故来たのか気になったのだ。
 桜乃は、二人分の湯飲みを乗せている盆を机の上に置きつつ問うたわしに説明した。

「え・・・?あ、もうそろそろ頃合いかなと思って。」

 言われて自分の湯飲みを見てみるが、中にはまだ茶が残っている。
 ますます意味が分からない。

「おばあちゃんも、病気の時ぐらい水分をまめに摂ってね。」

 そう言い残して去っていく孫娘の後姿を見て、この子は手塚のために茶を運んできたのだと、遅ればせながら理解したのだった。



前へ >>