■ 『福士×桜乃』(第15位)
お前今日デートなんだって? 朝一番に、にやにや顔で絡んできた時からヤバイ予感はしてた。 だから密かに桜乃にメールして、待ち合わせ場所を変えた。 しかし、相手は俺達が付き合い始めてから今日までずーっといやがらせをしてきているような奴等だ。 校門に桜乃の姿がなかったら、すぐに青学に向かうだろう。 だから、あいつ等に邪魔されたくねぇんなら、なんとしても。 (なんとしてもあいつらより早く会わねぇと・・・!) 思いっ切りペダルをこいで、青学まで全力疾走する。 桜乃の姿が見えたら、そのすぐ横に停止して、彼女を乗せてすぐ出発しなくては。 普段は滅多に使わない脳の中で、その時のシュミレーションをしてみる。 よし、今日は勝てそうな気がするぜ。 ―――――――――――――――――――――――――― ■ 『神尾×桜乃』(第14位)「ご、ごめんっ!」 会話の最中に、急に謝られた。 目の前には、とてもすまなさそうな顔をした神尾さんがいる。 「ど、どうしたんですか・・・?」 「・・・なんていうかさ、俺って杏ちゃんが誰と話しててムカついたとか、そういう話ばっかしてるんだよな、竜崎さんに。」 「・・・そう、ですか?」 言われて、今まで神尾さんとした会話を思い返してみると、確かに会話の大半は杏さんに関してのことだった。 けれど、神尾さんが謝ることなんてひとつもないように思える。 「・・・神尾さんが杏さんの話をする時は、大抵『聞いてくれよ』って言葉から始まるんですよね。」 「え・・・?マ、マジ?!」 「マジ、です。」 余程驚いたらしく、神尾さんはなにやらぶつぶつと言い始めてしまう。 そんな神尾さんに断りを入れてから、先を続ける。 「私はその会話も好きで、楽しみにしてたんです。」 「え・・・?!」 神尾さんは私の言ったことに今度も驚いたみたいだった。 目を丸くしてなんでと聞いてくる様子を可愛いと思いながら、私はゆっくりと喋り始めた。 「神尾さんには失礼かもしれないんですけど・・・。男の人も私達と一緒なのかなって思えたから。」 自分のことをどう思っているんだろう。 どこまでなら我侭を言っていいんだろう。 そんな不安を、男の人ももっているのだと。 「・・・正直に言ってしまえば、好きな理由はこれだけじゃないんですけど。」 これ以上は秘密です、と笑いながら言えば、これ以上は秘密ってと言いながら、神尾さんも笑った。 ―――――――――――――――――――――――――― ■ 『ブン太×桜乃』(第13位)練習している俺を応援しにきてくれたのであろう最愛の人は、何故か腑に落ちない顔をしていた。 「・・・なんでそんな顔してるんだよ。」 そんな顔とは、仕掛けた悪戯にあまり反応してもらえなかった時のような顔だ。 「なんであれを持ってきていないんですか・・・。」 「は?」 「だから、あれです。」 桜乃が珍しく怒ってるような声で喋るから思わず考えてしまったが、俺はそれを途中で止めた。 桜乃はさも『前から約束していました』風に喋っているが、何かを持ってくるという約束はした覚えがないし、約束していたとしても、桜乃が今日ここに来るなんて知らなかったし、考えもしなかったので持ってくることなんて不可能だったからだ。 そんな俺の心の声を聞いてはいないだろう桜乃が、再び口を開いた。 「なんで・・・!なんではちみつレモンを持ってきてないんですか?!」 その言葉を聞いた瞬間の俺は、写真を撮っていたら、それをネタにして虐めまくれるくらい変な顔をしていたと思う。 というか、俺だったらそうするに違いない。その対象が自分じゃなければ。 「だから、甘党だって公言するくらいなら、休憩時間にははちみつレモンを食べていなきゃおかしいって言ってるんです!」 なんでそんなこと言われなきゃなんねーんだよと言った俺に向かって、失望したといわんばかりの表情で、桜乃がそう叫ぶ。 「むしろレモンにはちみつをかけてそれを丸かじりするくらいの漢気を見せてくれないと!」 はちみつレモン?ああ、輪切りにしたレモンをはちみつでつけたやつね。 俺一瞬飲みモンの方想像しちゃったぜあはははははは。 彼女の皮を被った偽者だろと叫びたくなる程普段の桜乃とあまりにもかけ離れている人物を前にして、現実逃避をしようとした俺は、目の前が真っ暗になっていくのをぼんやりと感じながらコートに倒れた。 ―――――――――――――――――――――――――― ■ 『乾×桜乃』(第12位)眼鏡って大変ですねと、大切な子が言った。 「うん?」 今丁度話題に上った眼鏡を指で軽く押し上げながら、桜乃ちゃんの顔を見るために顔を上げる。 発言者である桜乃ちゃんは、なにやら考えていることがあるようだ。 「今日は一日中度が入っていない眼鏡をかけてたんですけど、耳の裏が痛くなるし、視界にフレームが入るしで疲れました。」 喋っているだけで気疲れしたらしく、肩を落としてしまった桜乃ちゃんは、まだ痛んでいるらしい耳に、そっと自分の手を触れさせた。 それから、気合を入れるように顔を横に振ると、視線をやっと俺の方に合わせてくれた。 「だから、いつも眼鏡をかけている人はすごいなぁって。」 「そりゃあ、努力もするさ。」 眼鏡がなくちゃ、桜乃ちゃんの顔もしっかり見えないからね。 ついでにそう発言し、後悔する。 今のは少しセクハラ発言だったろうか。 心配をよそに、そうなんですかとだけ呟いて、桜乃ちゃんは微笑んでくれた。 それに合わせて、俺も笑った。 眼鏡は医療器具です。
リョーマは今、焦っている。 こんなに焦ったことなんかないって思うくらい焦っている。 目の前には、涙をぽろぽろと零している彼女。 彼女はリョーマの困惑を感じ取ってしまったらしく、涙を止めようと必死になっている。 涙は止めようとする気持ちの分だけ流れ出るというのに、だ。 今この場で時折聞えるのは、桜乃のすすり泣く声だけ。 二人きりの教室に響くそれは、リョーマをますます圧迫してくる。 「・・・・・・竜崎。」 心なしか不機嫌そうな声音で彼女の苗字を呼ぶと、伏せてしまっている顔を更に深く伏せられてしまった。 それは仕方がない。 色々悩んだ末、やっとのことで発した言葉がこれかと、リョーマでさえ自分で自分を恨んだのだから。 (こんな時、ここにいるのが俺じゃなかったら・・・。) 今ここでそんなことを思っても切ないだけだと、リョーマも分かっている。 だから、せめて普段通りの声を出そうと苦心しながら、再び口を開く。 「・・・さっきのは、すべて俺自身に対する言葉だから。」 竜崎が傷付くことはない、という言葉を続けられなくて急に焦りだす自分を、リョーマは心の一部分で冷静に見ている。 「俺は、竜崎のこと好きだから。」 そしてつと、今まで出せなかった言葉を外に出してしまって、リョーマは心中でどうにでもなれと叫んで再び好きだと言った。 前へ | 次へ |