■ 『海堂×桜乃』(第20位)


 綺麗な毛をもっている野良猫のリクエストに答え、そのコの顎周辺を撫でていた時だった。
 急に濃霧が晴れたかのように、その猫の近くで人が寝ていることに気がついた。
 今までそれに気付かなかったことがとても恥ずかしかったけれど、同時に、この白猫に飼い主がいることに安堵した。
 安堵したとたん、私の心の中に変な余裕が出てきて、ついでとばかりにこの猫の飼い主っぽい人物に目を向けて、驚いた。
 私にとって、俄には信じられない人物だったからだ。

「・・・海堂先輩?」

 その人物は、桃城先輩がマムシと呼ぶことがある眼光が鋭い先輩だった。
 自分が見掛ける時はいつも怒った様な顔をしているから、猫と一緒にお昼寝なんてする人じゃないと勝手に思い込んでいた。
 実を言うと今もそう思っているので、目の前の光景が信じられない。

 でも本当は、優しい人なのかもしれない。
 私が誤解していただけなのかもしれない。

 そう思ったら、心臓の辺りが暖かくなってきた。


(・・・・・・。)


 帰ろう。
 唐突にそう思った私は、しっぽをゆらゆら動かしている猫を一撫でした。
 それから、足音を立てないよう気をつけながらその場から離れる。

(じゃあね。)

 なんとなく得した気分を抱きつつ、猫に手を振った。



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■ 『不二×桜乃』(第19位)


「ふーじせーんぱーい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 名前を呼ばれた不二は、声のした方に視線を向けた。
 その冷たい視線を受けた人物は、ひっどーいとか叫びつつ、大袈裟な動きで自分が傷ついたことを不二にアピールする。

「・・・何馬鹿なことしてるの英二。」

 溜め息をつきながら、菊丸に不二が近付く。
 呆れつつもちゃんと相手をしてやるあたりは、不二の優しさだろうか。

「や、桜乃ちゃんのマネ。」
「殴っていいよね。」
「ちょっ、ちょっタンマ!タンマだってば不二!」

 笑顔のまま肩を掴んでいる手に力をいれてくる不二に恐怖を感じ、慌てて菊丸がストップをかけるが、不二が動きを止めることはなく、数秒後に不二の鉄拳制裁を受けることになったのだった。



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■ 『菊丸×桜乃』(第18位)


 それでね、と話を続けようとしたところ、不二が無言で手の平を突き付けてきた。
 その行動の意味が分からないので、あに、と質問してみれば、大きな溜め息を返された。

「・・・もういいよ。」
「は?」

 やっぱりわけがわからない。
 素直に首を傾げれば、また大きな溜め息をつかれてしまった。

「もう英二の話は聞きたくないって言ってるの。」
「・・・え?!どうして?!」

 俺の話をちゃんと聞いてくれる友人は大石以外には不二ぐらいしかいないから、そう言われるのはかなりショックだった。
 だからみっともなく不二の足にすがりついて、捨てないでと叫んだ。
 そんな俺を冷静に見ながら、不二は今日三度目の溜め息をついた。

「最近の英二は桜乃ちゃんの話しかしないからもう聞きたくないんだよ。」



 ゴチソウサマと意地の悪い声で言われたら、もう何もいえなくて。

 俺は、赤い顔のままぶうたれることしか出来なかった。



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■ 『伊武×桜乃』(第17位)


 さらりさらりと黒髪が揺れる。
 原因は、持ち主が船を漕いでいることにある。

(・・・なんか可愛いな。)

 肘を突いたまま眠ってしまった少年の前で、少女はくすりと笑った。

 本当は、寝てなんかいないで構って欲しい。

(私がそう言ったら、どうしますか?)

 言ったらいつも無表情な少年の驚く顔が見れるかもしれないと考えて、少女はふと、自分がそういった類のことを言ったことがないことに気付いた。


(・・・我侭言ってもいいって、言ってくれましたよね?)


 心の中で少年にそう問いかけた後、少女は再び本に目線を戻した。
 彼が起きたら我侭を言ってみよう、と密かに決意しながら。



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■ 『柳×桜乃』(第16位)


「柳さんは持ってないんですか?」

 じっと柳の手元を見ていた桜乃が、急にそんな疑問を柳にぶつけた。
 当の柳は、彼女の言いたいことはなんとなく想像が付くものの、確信がないためにどう答えようかと少し迷った後、疑問を投げ返すことにした。

「俺は何を持っていないんだ?」
「あ、ええと、ノートです。」

 そう言われて柳は、すぐにああと短く返した。

「貞治はいつもノートを持ち歩いているからな。」
「そうなんです。」

 気がつくとノートに何か書き込んでるんですよと、くすくす笑いながら桜乃が言う。
 それに柳は、貞治のくせだからな、と答える。

「どちらもデータマンと呼ばれているのに。」

 悪戯っぽい表情を浮かべた桜乃が、不思議ですよねと言葉をつけたす。
 やや間をおいてから、柳が短く返す。

「不思議、だな。」


 遅れたのは、この少女が自分の隣にいることも不思議だと思っていたから。



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