「えーちーぜーんっ」
「何ス………っ………」 「はは、お前油断しすぎ。窓辺でボケっとしてると奇襲かけられるぜ」 豪快に笑い飛ばす桃城は、リョーマの頬に指を突き当てたまま奇襲をかけていた。 むすっとしてリョーマはせめてもの抵抗に睨み付ける。 「そんな怒んなよ………」 その気迫に冷や汗を垂らしつつ指を引っ込めた。 「別に」 「でも珍しいよね。越前が桃に奇襲かけられるくらいぼんやりしてるの」 微笑ましいものでも見ているように(確実に彼の錯覚だと思うが)河村隆は 人好きする笑みを浮かべた。 「……別に」 「タカさんおかえり。どうだった?」 「うん、なんとか話し付けてきたよ。ただ、最後までごねてたからちょっと手間取ったけど」 〃手間取った〃の中に具体的に何が含まれているのか悟ってリョーマも桃城も上擦った声で 「へえー」と言うしかない。 反現王派の貴族は少なくない。 ただ、過去に公に反抗した貴族が一族全て根絶やしにされたことがあるせいで 誰も大っぴらに出来なくなっただけで。 そんな貴族を探して、後方援助をしてもらえないか交渉しに行くのは専ら大石と河村の役目だった。 なぜ二人が行くことになったかというと、人当りのよさそうな大石で好感度を上げ、 それだけでは嘗められると困るということで、河村が付いてゆくのだ。 別に大石だけでもいざとなったとき対処できるのだが、 なかなかに強いとは言えリョーマ達行動派と比べると及ぶほどではない。 そのため二面性を持つ河村が付き添う。 河村も一見すれば人当たりがいいだけで嘗められてしまいそうだが、 彼は戦闘に対する嗅覚が飛び抜けている。 一度嗅ぎつければまるで人が変わったような気迫を出すのだ。 そのために今の台詞は聞き逃せないものがあったのだが、そこはそれ、 無理矢理惨劇を思い浮かべないこととした。 「三人とも、仕事だよ」 奥の扉から半身だけ乗り出して、不二が促す。 三人はそれぞれ頷いてから中に入った。 「お、揃ったか」 入ってすぐ、大石が迎える。 それ程広くもない室内の中央には机が一台据えられている。 と言っても、それを周りを体格のよい少年九人が囲って、なお空間に余裕があるので 狭い訳ではないのだろうが、明りが暗いせいで妙な圧迫感を感じた。 いつもそうだ。この部屋に入るとどことなく居心地が悪い。 妙な汗をかいて、リョーマは服の襟を緩める。 「作戦を話す。いいかい?」 副リーダーの大石が全員を見回しながら告げる。 この部屋に入った時点で心は決まっているし、誰も下りる気はないのだが、 大石はいつも確認していた。 あるいは自分に向けているのかも知れない。 そして、最後に背後の壁に背を預ける布を頭に被った少年を見た。 少年は無言で頷いてみせる。彼がこの青竜のリーダーなのだ。 しかし、説明等はいつも副である大石から受ける。 それに関しては誰も何も言わない。彼が特別であると分かっているからかも知れない。 机の上いっぱいに大石は紙を一枚広げた。 「これが今回侵入する屋敷の見取り図」 「うへ、結構広いにゃ」 うんざりしたように英二がぼやくのに密かに全員が同意する。 「敷居はね。でも重要なのはここなんだ」 「武器庫かな」 訪ねた不二に大石は頷いた。 「ああ。この屋敷の主は武器の収集家でね。しかも選りすぐったものをコレクションしてる」 「コレクションをブチ壊すんすか?」 「いいや、選りすぐられた武器なんてただ見目がいいだけの鑑賞用だよ。 問題は集められてもコレクションされなかった武器」 首を傾げた桃城に、眼鏡を意図的に光らせたとしか思えないような押し上げ方で 乾が淡々と告げる。 「その武器、どこに流れてる?」 それまで全く無言だった海堂が口を開いた。 「いいとこに気付いた。これがやっかいなことに、俺達にとってかなりマズイとこに運ばれるんだ」 「マズイところ?」 「ああ。レジスタンスが人知れず襲撃されているのを知ってるか?」 思い至るところはある。 最近のことだが、どこからかアジトを嗅ぎつけて潰されてしまったレジスタンスがあると 果物屋の店先でおばさんが噂していた気がする。 「警備隊とは別に公にされない組織があるそうだ。そこに流れている」 「なるほど、その武器の流出を止めるだけでなく奪うんだね」 「逆を付くんだ。レジスタンスを潰す武器でレジスタンスが儲けるんだ。 奪った武器を使ってもよし、運び屋に売るのもよし。資金も武器も多ければ多いだけいい」 「一石二鳥ぅ!」 ニヤリと微笑む大石に、英二がにっと笑い返した。 「じゃあ、説明を始めよう。いいかい、リーダー」 「ああ。今回派手に動くことになる。しかし、油断せずに行こう」 重みのある声音に、空気が変わった。 やっと、やあっと彼が出てきてくれました。一言だけ(笑) 青竜が動き出します。 会議のシーン、いっぱい人がいすぎて誰が誰だか・・・。 じゅんが分からなくなりそうでした。 しかも、喋らないといるのかいないのか分からないという・・・ そんなエピソードもありです。 |