2.瞳









(さっき誰かと目が合った気がしたけど………)


気のせいか、と思い直して、青味を帯びた茶色の瞳の少年は前を行く仲間の後を追う。


「越前ー、何ぼおっとしてんだ。捕まっちまうぜ」

横に並んできた、自分よりも一つだけ年上の少年が人好きのする顔を
ニヤニヤと歪ませて軽口を叩くのを、
越前と呼ばれた少年がお返しとばかりに不適に微笑んでみせる。


「桃先輩じゃあるまいし、そんなヘマしないっスよ」

「なにおー、前から言おうと思ってたけどな、お前俺を年上だと思ってないだろう!
 ……って、こらぁ、聞いてけー」

「あー、うるさいうるさい」


桃城が説教を始めた隙に、さっさと先行して、しれっと言ってみせた。
くすっと息を漏らす笑いが聞こえて、眉を跳ね上げて越前リョーマはストレートヘアがよく似合う
細身の少年を睨みつけた。

「なんスか?」

「ううん、なんでもないよ」


開いているのかよく分からない目蓋で、少年、不二周助はにこにこと笑む。
多少癇に障ってむっとしていると、わずかばかり先行していた外側にぴょんと跳ねているのが
特徴的な赤茶の髪に、猫を思わせる雰囲気の少年が振り替えって口を尖らせた。


「んもー、皆遅すぎ。そんなんじゃ捕まっちゃうじゃん」

「ごめんごめん、でも英二が早すぎるんだよ」

「んにゃ?そう?」


生来持って生まれた身軽さで、軽快に走る英二に不二が少し困ったように言ってみせる。
屋根の上を駆け抜ける四人の体にはそれぞれ青色の布が、英二とリョーマは首に、
桃城は二の腕、不二は左腕に長々と巻かれている。
この特徴はレジスタンス〃青竜〃の仲間の証だった。



 レジスタンス。
それが興ったきっかけは約半年前急な出来事だった。
半年前までのこの国はとても平和で栄えた国だった。
それがある日突然王が交代した。
と、いうのも前王が突如倒れたのだ。
詳しいことは国に住む庶民には知らされない。しかし、誰の目から見ても理由は明らか。
前王の弟で、侯爵だった男の暴動によって王は倒された。
現王は王位簒奪の後徹底して前王派を一掃している。
自分のためにならない者は身内でさえも容赦無かったと城を追われたもの達は
体を震わせながら語った。


 その後の国は荒れるだけだった。
政治がうまく機能せず、貿易も徐々に衰退し、庶民の暮らしは徐々にだが悪い方向に進んでいる。今も。
贅沢をしているのは一部の貴族だけだ。
だから、レジスタンスは今も増え続けている。
民衆の中にはレジスタンスを指示するものも多い。


「不二ー、このままじゃマズイって。まかないと帰れなくなっちゃうよ」


焦ったように言う英二に、頷いて、不二は早口で告げた。


「僕がこれを投げたら、皆いっせいに散って、後でカルピンで合流。いいかな?」

「オッケー!」

「了解っすよ」

「了解」


それぞれが承諾するのを確認してから、不二は手に持った小さな手榴弾のピンをぬいて


「じゃあ、後で」


後から屋根伝いに苦戦している警官隊の足下に投げつけた。






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