黄塵の都





1.プロローグ









表通りとは違い、閑散とした裏路地を少女が息を乱して一心不乱に駆け抜ける。
少女には急がなければならない理由があった。
指定の時刻は目前にまで迫っているというのに、今日に限ってパレードが行なわれているため、
予定ならもっと早くに辿り着けたものを極端に迂回する羽目になったのだ。
頭から被った布の中の紙袋を抱え直して、酔っ払って潰れている中年の男の上をジャンプして跨ぐ。
しばらくして開けた通りは広間に繋がる広い路地だ。
人の多さに唖然として思わず止まった足を叱咤して、少女は人混みを縫うように横切る。


刹那 ―――


「青竜だぁ!」


聞こえた声に、人々が徐々に足を止めて、声のほうを向く。


「レジスタンスめぇ!捕えろー」


警官隊の怒声が空気を切り裂くように辺りに剣呑な雰囲気を撒き散らし、
やがてその怒声を追うように喧噪が響き出す。
足を止めた人々の中には「またか」と舌打ちする者や、
面白そうにその様子を見ようと背伸びするもの、喜ぶやらやっかむやら様々な反応が見られた。


「そっちへ行ったぞ」


喧噪が少女のいる通りに近付いてくる。
内心冷や汗をかき、少女は被った布のせいで狭められた視界に苦戦しながら、
ようやく半分まで進み終えた。

が、ほっとする間はなかった。


「民衆のみなさーん、ほいほいっと避けてちょー」


妙に明るい声が聞こえ、次いで、人混みを割るように
青い布を体の一部に付けた集団が走り抜ける。
数人の少年達は後方から迫る警官隊にそれぞれ軽口を言いながら屋台に張ったテントに
軽い足取りで上り、建物の屋根に足場を移動した。


(レジスタンス!)


少女は驚きに一瞬目を見開いた。
目の前を過っていくレジスタンスの一人、わりと小柄な体格の少年と目が合ったのだ。
錯覚ではない。
少年の鋭い瞳と目があった瞬間、回りの喧噪がシャットアウトしたように、
全神経を奪われたからだ。
立ち止まったことでいっきに押し寄せた疲労感もその瞬間だけなりを潜めた。
少年が行ってしまうと、回りの音が少女の耳の戻ってくる。
同時に忘れていた呼吸も戻って、肺が悲鳴を上げた。
レジスタンス〃青竜〃の後を追って、警官隊が過ぎるのを歯がゆい気持ちで待ってから、
少女は再び走り出した。






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