その日は朝からいらいらしていた。







幾つか










 今日何度目かになる溜め息をつきながら、俺は窓の外を見つめた。
 教室には真面目そうな誰かの教科書を読む声が響いているが、今日はいつにも増してやる気がないため、それを真剣に聞こうだなんて気は1ミリも起きやしなかった。

「僕は、これは夢だと何度も思おうとした。だが・・・」

(ホント、夢ならいいのに。)

 校庭から目を離さずに、ふと耳に入ってきた教科書の一文に深く同意する。
 しかし現実は無常なものだから、嵐がやってくることは変えられない『予定』である。

(俺ごときが、今更どんなにあがいても。)

 奥歯を噛み締めたところでタイミングよく退屈な時間の終わりを知らせるベルが鳴り、この授業の担当でもあり俺達の担任でもある男が、続きでホームルームを始める。

「じゃあ今日はここまで。日直ー。」

 授業に比べればホームルームなんて短いものだ。
 ちょっと彼方へ意識を飛ばしているうちに、誰かの声に合わせてクラス中の人間が一斉に立ち上がっていた。
 立ち上がることも面倒だったが、やらないとまた延々と説教されるので、やや遅れたタイミングで立ち、礼をし、どかりと席にまた座った。
 机の上に置いた鞄の中に教科書を適当に放り込んでいると、誰かが話しかけてきた。

「何ちんたらやってんだよ越前。今日の当番俺達なんだからさっさと行かないと怒られるぞ!」

 堀尾だ。
 まあこのクラスで俺に話しかけてくるヤツなんてこいつしかいないようなものだから、考えるまでもないけど。

(ていうか、俺レギュラーだから仕事しなくていいはずなんだけど。)

 そう思うが、わざわざ訂正するのは面倒だったので、放っておくことにする。
 俺は鞄を持って立ち上がると、まだぶつぶつ言ってる堀尾の横を通り過ぎ、ドアに向かって歩き出した。
 堀尾も、文句を言いつつ俺の後に続いた。
 いつもだったらウザイって思うところだが、今日は別になんとも思わなかった。

 それは多分、今日くる嵐の方に意識が向かっているからだ。




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