なんで自分に向けられる好意に気付かないんだろ・・・。




ジェラシー







 俺が付き合ってる女の子は俺より年下で、青学に通っている。
 なんで青学を選んだのか聞いたら、
『おばあちゃんが青学で教師をやっているから』だと答えた。
 そんな理由なら不動峰でもいいじゃんとか思ったけど、うちって質(たち)悪いんだよな。
 やっぱり青学の方がいいかも。むかつくけど。

 そんなことを考えている最中に、ふと俺の部屋にその彼女がいることを思い出し、
一旦考えるのを止め隣を見てみた。
 今俺が考えていた事柄の中心である彼女は、熱心に床を見つめていた。
 なんとなく彼女が男に言い寄られてるとこを見た時みたいな気持ちになったけど、
しょうがないかと諦めておくことにする。

 急に喉の渇きを感じたから自分のカップを手に取ると中身は空っぽで。
 しょうがないとソファから立ち上がったついでに、コップをもうひとつ持つ。
 持ち主自身を表しているような、淡いピンクと白のコントラストが可愛いマグカップ。
 彼女と俺の意見が一致して買った、彼女専用のマグカップだ。

 なるべく音を立てないように歩き、流しの蛇口を捻る。
 冷たくないが生温くもない水でコップを洗うと、
銀色に光る食器立ての中に置いてガスレンジの取っ手を回す。
 お湯になるまで時間があるので、また考えを巡らせてみることにする。
 ええと、どこまで考えたっけ?
 ・・・まあいいや。忘れても別に害はないし。

 彼女はもてる。
 老若男女問わないし、恋という意味だけではなく、
妹にしたいだとか母親になりたいだとか・・・。
 とにかく、彼女を好意的に見ないやつなんているのかってぐらいもてている。
 けれど、悲しいぐらいに彼女は鈍い。
 あれだけ好意が混じった視線を受けていても、自覚しないくらい鈍い。
 これには驚いた。
 まあ、彼女には最初から驚かされっぱなしなんだけど。
 けど、彼女が鈍いからって彼女に向けられる好意がなくなったりするわけもなく。
 むしろそれだけ彼女が危険な目に合う確率が上がったんだと思う。

 だから俺は、彼女と会える少ない時間の中で、
出来うる限りの牽制をしなきゃいけない。
 彼女のクラスメート(しかも席が近くだったりするヤツは要注意)だとか、
彼女がよく出入りする所だとかは、特に気をつけている。
 その結果どこに行っても落ち着かなくなってしまって、
どこか落ち着く場所はないのかと考えた。
 思考の末、行き着いた先は自分の家だった。
 最近のデート場所はもっぱらここだ。

 ヤカンからお湯が吹き出た音に気付いて、ガスレンジを振り返る。
 宙にヤカンを浮かせ、用意してあったティーポットにゆっくりお湯を注ぐ。
 暫く時間を置いてから、ティーポットの蓋に手を伸ばす。
 これくらい出ていれば大丈夫だろう。

 コップを両手で持って彼女の方へと踏み出せば、見えるのは、
いまだパズルに意識を捕らわれている彼女。

 もし彼女がもてなくなったとしたら、自分はどうするのだろう。

 まず、例えそうなったとしても、俺が彼女を嫌いになったり、
彼女の元から離れていかないだろうということだけは断言出来る。

 けれど、それで俺は安心出来るのだろうか?



「・・・・・・深司さん?」
「・・紅茶。飲む?」
「あ、はい!ありがとうございます。」

 そうなったとしても。
 俺が好きなのは、紛れもなく彼女ただ一人。


 けれど、



「桜乃じゃないと、ダメなんだよね。」
「・・・え?」
「桜乃じゃなければダメなんだ。」
「え・・・ええと、・・・あ、ありがとうございます・・。」



 君から一番大切な好きをもらえるのは俺だけだから。
 だから、こんな日常もいいと思う。





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