自分専属マネージャー






「・・・マネージャー欲しい。」

 彼がそう呟いたのは、ただ、自分の部活友達がどういう反応をするか
見てみたいと思ったからなのだけれど、彼の想像以上に周囲の反応は良かった。

「そう言われればそうだな。」
「部員が増えたことに比例して雑用も増えたけんな。」
「仁王君。そういう言い方はないでしょう。」
「マネージャーは雑用係じゃろ。」
「や、柳生もマネージャーが欲しいっていう意見には賛成なんだろ?」

 激化しそうになった二人の間に入ったジャッカルが、
25度くらいずれそうになった話題を元に戻した。
 ジャッカルの言葉で沸騰しそうになった頭を瞬時に冷やした柳生は、
一度深い溜め息を付いてから、そうですねとジャッカルの言葉を肯定した。
 最初の発言者は皆の様子に気をよくし、風船状に膨らませたガムをぱちんと割ると、
うきうきした声を出した。

「だろだろ?!マネージャーにさ、優しく怪我の治療とかして欲しいよな!」
「男性にしてもらうより気分はいいですよね。」
「飲み物を手渡してもらったりとかな。」
「タオルを手渡してもらうというのもなかなかいいぞ。」
「・・・下らん。」
「とか言いつつ満更(まんざら)じゃなさそうじゃけど?」
「・・・・!!」
「いいよなーマネージャー。」

 うんうんと揃って首を縦に振る一同。部室内がつかの間静かになる。
 自分の座る椅子の背もたれに顎を乗せ、ブン太がまた呟く。

「青学の応援に来てた三つ編みの子がマネージャーだといいよなぁ・・・。」
「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」

 自分の周りにいる人達の反応を見て、ブン太が顔を上げる。
 その顔は、唖然としている。

「・・・何?ここにいる全員あの子に目ぇつけてたってわけ?」
「反応を見る限りでは・・・。」
「そういうことじゃろな。」

 顔を見合わせる六人。

「・・・マネージャーがどうとか言っている場合ではないようですね。」
「そうだな。まずはあの子を手に入れなきゃ。」
「・・・どうしたんだ赤也?」

 ジャッカルが、普段なら真っ先に飛びついてきそうな後輩に声をかけた。
 あの赤也が口を一切出してこないのはおかしいと、今更ながらに気が付いたからだ。

「いーえ別に?興味がないから傍観してただけなんすけど。」
「・・・・は?」

 ジャッカルが発したその言葉は、全員が思ったことでもあった。
 いや正常な青少年なら興味がないなんて嘘だろとか、
つーかお前が興味ないなんて言うなよとか、
色々な思いが凝縮された一言であるといえる。
 そんな先輩方には見向きもせず帰り支度を終えた少年は、
屈託ない笑顔とともに言い放った。

「俺には長い三つ編みが可愛い俺専用のマネージャーがいるんで、
 その子だけで十分っす。」


 「じゃ、お先に!」という少年の帰りの挨拶は、部室内にとても冷たく響いた。





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