introduce friend to girlfriend or boyfriend.
(彼女(彼氏)を友人に紹介)






「・・・と、いうわけで、今日はギャラリーが多いですが、
 気にしないでくださいね桜乃さん。」
「は、はあ・・・。」

 長い説明を終えた観月さんは、冒頭の台詞で会話を締めくくった。
 その口元が微かにひくついているのをはっきりと見たが、どうしようもない。
 どうしようもないから、酷く居心地が悪い。

「へー。この子が観月の新しい彼女なんだ。」
「え?!観月って彼女いたのか?!」
「知らないの?けっこう彼女とっかえひっかえしてるんだよ、観月ってば。」
「そうだったのか・・・。」
「何言ってるんですか木更津!赤澤も納得しない!桜乃さんが誤解するでしょう?!」

 そう言って振り向いた観月さんは、普段あまり見せない顔をしていた。
 その上、妙に落ち着きがなくなってしまっている。

「ご、誤解ですからね桜乃さん?」
「誤解も何も事実じゃない。」
「木更津!まだ言いますか!!」
「ああ見えて観月もなかなかやるだーね。」
「柳沢も悪乗りしない!!」
「悪乗りも何も事実だーね。な、淳。」
「そうだね。くすくす。」

 柳沢先輩と木更津先輩の見事なコンビネーションが、観月さんを窮地に
追い込んでいっているが、もう一人の参戦によって、それは崩れ去った。

「意外とやるんだな観月。」
「だから事実でもなんでもないんだよ!分かれこのバカ澤!」
「な・・・!バカとはなんだバカとは!!」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いんですか。」
「馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだよ!よってお前は俺より馬鹿!」
「なんだ、自分で認めてるではないですか。やっぱり馬鹿ですね。」
「なにを ――――――!表に出ろ観月!」
「この僕が喧嘩だなんて野蛮な真似するわけないでしょう。これだから単細胞生物は。」
「そんなこと言って、あの時みたいに無様に負けるのが怖いんだーね。」

 柳沢先輩の一言によって、赤澤先輩は怒気を幾分か弱らせた。
 逆に、静かに怒気を立ち上らせたのは観月さん。
 一言で表すと、形勢逆転っていったところか。

「ああ。そういうことなら見逃してやらぁ。」
「・・・誰がそんなこと言いました?」
「言ってないけど態度がそう言ってるだーね。」
「この僕が赤澤如きに負けるのが怖いだなんて、
 そんなことあるはずないじゃないですか!」
「そこで声を荒げるところが怪しいよね。くすくす。」
「分かりました!そこまで言うなら受けて立とうではないですか!」
「なら表出ろよ!」
「上等です!」
「おっ!観月がやる気だーね!」
「観月もけっこう単純だよね。」

 バンッと豪快な音を立てて外に出て行く観月さん達の後を、
わたわたと追いかけようとしている竜崎を引き止める。

「あの人達はああなったら一時間は口論してるから、ほっといたほうがいいぜ。」
「で、でも、喧嘩がどうとか・・・。」
「言ったろ?口論するだけだって。」
「なんで言い切れるんですか?」
「いっつもああやって出てくけど、結局息切らせて帰ってくるだけだから。」
「は、はぁ。・・・海堂先輩と桃城先輩の喧嘩みたいなものですか?」
「そーゆーこと。」

 俺の説明で納得してくれたらしい。
 竜崎は困ったと表現していた顔を緩ませるどころか、少し笑った。
 どうやら機嫌が直ったらしい顔で、俺に話しかけてくる。

「観月さんって、ああいう子供じみた喧嘩もするんですね。」
「ああ。しょっちゅうやってるぜ。」
「しょっちゅうですか?」
「そうだけど・・・。何が面白いんだ?」
「え?えっと、皆さんとこんな風にお喋りしてるんだってこととか、
 私が知らない観月さんの一面が見れて、嬉しいんです。」
「・・・成る程ね。」

 男は付き合ってる子には無意識にでも格好つけたくなるものだ、
と前に誰かに教えられたことがあるけど、
観月さんでさえも、少しはそういう部分があるのかもしれない。

(・・・にしても、まだそんな喧嘩してるんだ、あの二人。)

 元クラスメイト達の変わってないらしい喧嘩(この喧嘩も、観月さん達の喧嘩と同じく
痴話喧嘩みたいなものだ。)を脳裏に描いて、懐かしく思った。
 あそこでの「良い思い出」は数えれるだけしかないけれど、俺にとって、
その分大事な思い出ばかりだ。

 そんな風に浸っている時に、突然竜崎の存在を思い出した。
 観月さんに会いにここへ来た竜崎には、
観月さんがここに連れてきたことがあるかないかに関わらず、
この場所はあまり居心地良い場所ではないだろう。
 ここでの居場所といえる観月さんは、怒りのせいで我を忘れて竜崎放っておいてるし。
 かといって方向音痴らしい竜崎を一人で置いておくのも、
迷子になるとか以前に男としてどうかと思うし。

(どうしたらいいだろう。)

 しばらく考えてから、俺は竜崎に提案した。

「これから校内見て回るか?」
「え?」

 俺の言ったことは予想以上に驚かせてしまったようで、竜崎は目を数回瞬かせた。

「じっとしてたってつまんねーだろ?
 どうせならもっとここでの観月さんを知ってみたらどうだ?」
「ここでの観月さん、ですか?」
「そ。観月さんの好きな場所とか、俺の知ってることならなんでも話してやるし、
 連れてってやるぜ?」
「ほ、本当ですか?!あ、・・・でも、裕太さんは忙しいのでは・・・。」
「別に特に用事はないぜ。それに、竜崎一人置いてったりしたら観月さんに怒られる。」

 瞬時に観月さんの姿を思い浮かべてしまう。
 しまったと思っても、浮かんできた怒っている観月さんは消えてくれるはずもなく。
 俺は小さく身震いした。

「と、とにかく!竜崎が行きたいんなら行こうぜ。」
「は・・・はい!」


 それから俺と竜崎は、一緒に部室とか観月さんの教室だとかを見て回った後、
ようやくカタをつけたらしい観月さん達と合流した。
 俺達を見た観月さんは、怒っているような困っているような、そんな感じだったけど、
怒ることもなければ文句を言うでもなかった。
 いつもだったら、こんな様子の時は何か言ってくるのに。
 それが不思議でしょうがない。

 そうそう。
 それから暫(しばら)くの間、先輩達に「真の勇者」と呼ばれていたけど、
一体どういう意味なんだろう?





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