おやすみ







 嫌で嫌でしょうがなかったもの。




          おやすみって言葉。










「オヤスミ・・・ですか?」
「うん。」

 夜店で買ったかき氷をさくさく掻き混ぜている桜乃ちゃんは、
より歩調が緩(ゆる)い。
 だから俺も、より歩調を緩くして歩く。

「清純を片仮名で書くとオヤスミだってね。」

 小さく発せられていた音が消える。

「・・・それ、こじつけです。」
「ん〜。でもこれ、小学校低学年の時の話だよ?」
「それでも。なんか悪意を感じます、その言葉に。」
「そうかな?」
「私はそう思います。」

 桜乃ちゃんが、いつしか止めていた手で、またかき氷を掻き混ぜ始める。

「ラーメンをラーメソと間違うとかはなんとなく納得できますけど、キヨスミですよ?
 絶対千石さんに対する意地悪です。」

 可愛い口から発せられる言葉の端々に滲み出ている感情。

「千石さん・・・?」

 それが、いつもの彼女からは遠く掛け離れたモノのように思えるから。


 俺の顔、今やばいかも。


「今桜乃ちゃんのせいで嬉しいかもしれない。」
「・・・え?」
「お礼にナイトコールしてあげるから楽しみにしててね!」
「あ、あの、清純さん?」

 はてなマーク飛ばしてる姿も可愛い桜乃ちゃんの手を、ひょいと盗んで歩き出す。










 にこにこ笑っている千石さんは、私の口にストローで作られたスプーンを運んだ。
 食べさせてくれたかき氷は、動揺しているせいであまり味がしない。

「これ、桜乃ちゃん味でしょ。」
「・・・こっちは千石さん味ですよ。」

 そう言ってさっきの千石さんと同じ動作をする。

「・・・・嬉しいけど、あんまりおいしくないね、これ。」
「そうですか?」

 私はおいしいですけど、と付け足したとたん、千石さんが顔を背けてしまう。

「それ、男に言っちゃまずいって桜乃ちゃん。」
「・・・言葉にも味あるんですか?」
「はは・・・。うん、まあそれでもいいや。」

 その後、家まで送ってもらう間に、なんであんなことを言ったのか何度か聞いて
みたけど、結局はぐらかされてしまった。



(気になるなー。)

 なんて思いながらも見つめているのは、他校生である千石さんと繋いでくれるもの。
 じっと見ていたら、暗い画面が明るくなった。

 ベットが振動してすぐにボタンを押す。

『さっきぶり桜乃ちゃん。』
「さっきぶりですね。」
『出るの早かったね。ちょっとびっくりしちゃった。』


 だって、ナイトコールしてくれるって言っていたから。


「楽しみにしてたんです。・・・迷惑でしたか?」
『そんなことないよ。安心した。』
「安心したんですか?」
『そう。調子に乗っちゃったけど大丈夫かなってちょっと心配だったんだ。』

 電話の向こうの千石さんが笑う。

『意外・・・って思ったりする?』
「・・・少し。」
『素直でよろしい。・・・・・・・・・もう・・・って、そんなに経ってないけど、
 切った方が良いみたいだね。』

 お母さんが私に向かって叫んだ言葉が、千石さんに届かないわけがなく。


「そう・・・ですね。」
『・・・明日も会えるから、今日はおとなしく寝ておくんだよ?桜乃ちゃん。』
「・・・おとなしくなんか寝れません。」
『じゃあ眠れるように子守唄歌ってあげようか。』
「・・・・・・。」
『あはは。男の子守唄を聞いたら逆にもっと寝れなくなるよねー。』
「あの、千石さん!」
『?何?』
「それなら・・・。」





「寝るとき言う言葉を、言ってもらえませんか?」
『・・・いいよ。』





『オヤスミ桜乃ちゃん。』
「オヤスミなさい千石さん。」








 これから





 脳にとても甘く響くオヤスミを、

 毎晩言ってくれますか?




 キヨスミと呼んでもらえるように、

 毎晩オヤスミって言おうかな?






                 小さな罠にどうか気付いて






キヨスミオヤスミ同盟にリンクを貼らせていただいた記念に
書いてみました。
いつも日記でしつこいぐらい「キヨスミなさい」「キヨスミなさい」
言ってるだけじゃ満足しなかったようですよ?

作中で桜乃ちゃんが「キヨスミなさい」を否定するようなこと言ってますけど、
話の流れ的にああ言わせただけですので!!
天狼は「キヨスミなさい」大好きです!!