出会えた喜びと、会えない寂しさ。
それに気付けたからこそ、恋は始まった。 「切ない・・・。」 俺にとっては運の良いことに、今回の席換えでご近所さんになった南が、俺の方を見ながら肩を戦慄(わなな)かせた。 「おい千石。」 「なぁに南ちゃん?」 「・・・。お前、朝から何回同じ台詞言えば気が済むんだよ。」 ちゃん付けしたことに怒っていても、本来の目的のためにそれを堪えて問うてくる南は格好良いと思う。 けど、でも、ねぇ? 「南ちゃんのことは恋人にしたくないし。」 「・・・誰もお前の恋人にしろだなんて一言も言ってないぞ。」 「俺の心はもう盗られてるし。」 「きしょいからそーいう言い回しは止めろ。」 肩をさっきとは別の理由で戦慄かせつつも、優しい南は俺を気遣ってくれる。 「っていうか千石、お前本当に大丈夫かよ?このところいつも以上に変だぞ?」 「んー・・・?・・・駄目かも。」 「・・・おいおい。」 優しい南はその上生真面目だから、もうすぐ大会なんだぞとか、友達として、部長として、言葉をかけてきてくれる。 でも今は、テニスのことは頭にはいってこないんだ。 「ねえ南。」 「ん?」 「俺駄目だからさ、青学行ってくるよ。」 自分のことばっか考えてる奴でごめんね南。 心の中で謝りつつ、驚いてる南の横を通り抜ける。 部活はどーすんだとか言ってる気がしたけど、聞こえてない振りをして教室を飛び出し、階段を駆け下りる。 (・・・会いにいくから。) 待っててくれるかもしれないという身勝手な希望を持って、会いに行くから。 だから、笑顔をもっと見せて欲しい。 もっと夢中にさせてほしいんだ。 平井賢さんの『POP STAR』が千桜ソングだと思って書きなぐった小話。
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