差し入れ







「あ、乾。遅かったね。」
「あんまり遅いんでもう全部食べちゃいましたよ。」
「どっかの大食らいがほとんど食べちゃったんだよね〜。」
「英二先輩だって結構食ってたじゃないっすかー。」
「桃ほどじゃないもんねーっだ。」
「越前も結構食べてたよね。」
「そうそう!何食わぬ顔して二個いってた!」
「マムシは感心してましたよね。」
「うん。それぐらいおいしかったね。」

 そう話している桃城達の目の前の机には、ケーキが入っていたと思われる箱。
 大石のすまなさそうな声が、桃城達の後ろから聞こえてくる。

「すまない。今日乾はもう部室にはこないと竜崎先生が言うものだから、
 遠慮なく食べてしまったんだ。」
「成る程、図られたわけだな。」
「は?」
「いや。こっちの話だ。」

 自分のロッカーを空け、何やらごそごそ探っている乾の背後に菊丸が立ち、自慢する。

「今日の差し入れは桜乃ちゃん作『甘さ控めショートケーキ』だったんだよ!
 しかもワンホール!残念だったね乾〜。」
「・・・ショートケーキ?」
「そう!」
「もしかして乾先輩ショートケーキ好きなんすか?」

 桃城が残念っすね〜と付け足す。

「そ、そうなのか?ならなおさらすまないな。」

 心配しておろおろしている大石に違うと一言言い、乾はぱたんとロッカーの戸を閉めた。

「もしかして余計な手間をかけさせてしまったのかもな・・・。」
「え?」

 淡々と帰り支度をしている乾に大石がそう問いかけるが、テニスバックのチャックを
開け、ロッカーから取り出したビデオテープを入れると、問われた本人は扉に手をかけた。

「じゃあ、また明日。」
「あ、ああ。また明日。」
「お疲れさまっす!」
「うん。バイバイ。」
「まったね〜!」










 乾がいなくなった後の部室で、未だに部室に残っている四人が会話を続ける。

「なかったや。」
「ありませんでしたね。」
「なかったって何が?」

 うんうんと頷きあっている不二と桃城についていけず、大石は素直に聞いた。

「余計な手間をかけさせてしまったかなって言ってたから、
 もしかして乾だけ別に差し入れ貰ったのかなと思って。」
「あ、だから乾がバック開けた時覗きこんでたんだ?」
「うん。」
「・・・不二。」
「言いたいことは分かるけどさ、大石だって気になったでしょ?」
「そりゃそうだけど・・・。」
「でもなかったんだよね?」
「僕が見逃してなければね。」
「俺も見てたんすから間違いないっすよ。」

 しーんとなった部室で、大石がぽつりと言う。

「・・・もしかして乾は今度貰えるんじゃないのか?」
「その可能性もなきにしもあらずだね。」
「いーにゃー乾!」
「英二も貰ってたじゃない。」
「英二先輩も隅におけねえな、おけねえよ。」
「何言ってんの!よく知らない女の子に貰うより桜乃ちゃんに貰った方が
 数倍いいに決まってるじゃん!」
「その通りっすけど・・・。」

 なんとなく笑えてきて、四人全員笑ってしまう。

「ま、明日乾に聞けばいいっしょ!」
「そうだね。」



「「「「じゃあまた明日。」」」」






 この四人は、桜乃に御礼を言っている乾を発見する未来を、
まだ知らないのであった。






要注意の続きです。
そう考えると、乾さんが貰ったケーキも分かるかと。
周助達が桜乃ちゃんに恋心を持っているのかいないのか、
どうぞ、御自由に考えてみてやってください。