No Limit








 ふらふらと、いつも以上に頼りなげに歩いているものだから、
なんとなく声をかけただけなのに。

(いや、詳しくなんて知んないから本当にそうかなんて言えないけど。)

 安さが自慢のファーストフード店の奥の椅子に座りながら、
俺はずず、とジュースを飲んだ。

「食べられるだけマシだと思え。」

 さっきからじっと見てるだけの少女に、自分でもぶっきらぼうだと思う声で
そう言えば、ぱっと視線を俺に向けてきた。

「ち、違うんです!」
「は?」
「あの・・・、その、本当に私が食べていいのかなって・・・。」
「・・・なんで。」

 持ってきた時に、お前の分だとはっきり言ったはずだ。
 今更そんなこと質問する必要なんてない。

「だ、だって、私とあなたはあんまり近しくない関係みたいですし・・・。」

 顔に出ていたらしい俺の言葉におそるおそる返された返事に図星を指され、
うっとなる。
 互いに気まずくなって、そのまましばし沈黙。

「・・・・・・あー…。ごめん。」
「え・・・?!」
「手がかりになる人達への連絡手段もってる人達がつかまんない。」
「い、いえ!全然平気ですから!」

 気を紛らわせるためと、先輩と連絡をとるために携帯をいじりながら、そう言ってやる。
 慌ててぶんぶんと頭を振りだす少女を見ていたらなんだか無性に笑いたくなって、
少し笑いながらバーガーを指差した。

「時間あるんだしさ、それ食っちゃいなよ。」

 腹が減っては戦も出来ぬっていうし、と知ったようなことを言えば、
やっと納得したらしい少女は、はい、と戸惑ったような声で返事をすると、
ゆっくりと包みを開けてバーガーにかぶりついた。

「・・・おいしい。」

 少女がにっこりと笑う。

「・・・ええっと。」

 実年齢よりも幼く見える彼女が初めて見せた笑顔に、不覚にも胸がどくんと鳴る。

 なんだかさっきよりも気まずいのは、俺の気のせいだろうか。


「お前の名前はさ!」

 数分前にしたように気を紛らわせようとして出した台詞は最低だった。
 だって俺、この子の名前あんま覚えてない。

「た、確か、竜崎・・・さ、さ、さ・・・。さくら!」

 苗字はあのおばさんの孫だったことを思い出したからすぐに言えたけど、
名前の方は思い出せなくて、頭をフル回転させる。
 そうやって悪あがきしていたら、合宿中いつも隣にいたツインテールの女の子が
こんな名前で呼んでいたことを思い出したので、嬉しくて叫んでしまった。
 静かな場所で叫んでしまえば、当然のように視線を集めてしまうわけで。

(・・・ハズ。)

 叫んだことが恥ずかしくて横を向いた俺を見ながら、竜崎が笑う。

「・・・なんで笑うんだよ。」
「ご、ごめんなさい!」

 別に謝って欲しいわけじゃなかった。
 でもよく考えてみれば、竜崎の性格からすると謝ってくる確率は高いわけで。
 でも俺は、何故か竜崎の笑顔が見たいわけで。

「・・・よし決めた。」
「え?」
「笑ったんだから、俺のことこれから名前で呼んでよ。」
「・・・え?!」

 わざとぶすっとした顔を作れば、不機嫌だと本気で思ったらしい竜崎が、
顔を赤くしてうつむく。

「俺もお前のことさくらって呼ぶから、さくらも赤也って呼んで。」
「・・・あ、あか・・・や・・・さん?」
「そ。赤色の『赤』と『〜なり』とか言う時の『也』で赤也ね。」

 机の上に指でゆっくりと漢字を書くと、さくらはそれを真剣な目で追った。

「あ・か・や・・・。」

 まだぎこちなさはあるが、前よりは格段に自然になった彼女が紡ぎだす自分の名前に、
嬉しくなって笑う。

(どうせ今のは無意識だろうけど。)

 俺と同じように指を動かしながら一生懸命俺の名を記憶しているらしいさくらを見て、
俺が思うことはひとつ。


(覚えててほしい。)



 この一瞬後記憶を取り戻したとしても。

 自宅に帰ってから記憶を取り戻したとしても。

 俺とこうやって過ごしたってことを。  俺の名前を。


 その脳に刻んでおいてほしい。



 そう願ってしまうことに、限界なんて、ない。






じゅんさんからのりくえすとぶつ。

なんだか尻切れトンボ気味なのは、
ぱちぱちちゃん御礼文で続きが読めるから。
だってじゅんさんあんなに細かく設定考えてくれるんだもん!(笑)
ええと、事情により微妙にアニプリ合宿編はいってます。

ネタの元 : soweluの「No Limit」