「・・・・・・。」

 頑固にも大丈夫だと言い張っている人のおでこにぴたりと手の平をあてると、
熱がこっちに移動してきた。
 言いにくそうにもごもごと発している言葉をひろって、有無を言わさず手をひっぱって、
駅へと歩き出す。

「・・・こんな状態のまま来てくれた方がよっぽど心配だよ。」

 ごほごほと辛そうな咳が聞こえてきて、痛くなる。
 自意識過剰だと思うけれど、こんな状態に追い込んだのは私なのかもしれないから。
 だから、罪悪感、と、少しの優越感。

「リョーマくん。」

 返ってくるのは、普段の彼からは考えられないほど弱々しい声と、苦しそうな咳。


「早く、元気になって?それで、デート・・・、しようよ。」








前日の日記にて、彼女が風邪を引いたことを知ったので、じゅんさん激励小話。
本当は、りょまに桜乃ちゃんを引っ張ってもらおうかなと思っていたのですが、
「桜乃ちゃんに励ましてもらった方が元気でるかな?」と思い、今の形に落ち着きました。
じゅんさんに元気でたと言ってもらえたので他はどうでも良し!

七月十一日
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「リョーマ君。」

 間違えるはずない、可愛い中に甘い響きがある声に名前を呼ばれて、
俺はそっちに向かった。

「・・・何?」
「・・・・・・あのね、その・・・。」

 なにやらモジモジしてる桜乃の前に立って、俺はその顔をじっくりと堪能した。
 なんせこんな距離で桜乃と会話・・・っていうか、
こうやって顔を合わせることも久し振りだから。
 桜乃の態度を見る限りではようやく仲直りしてくれる気になったように見えるが、
果たして本当にそうなんだろうか?

(いつもいらないところでボケかますし・・・。)

 ふぅと小さく呼吸してから反射的に閉じてしまった目を開けると、
覚悟を決めたらしい桜乃が、俺をじっと見つめていた。

 さっきと同じ言葉を繰り返すと、桜乃の口が動いた。

「あのね、この間のことなんだけど・・・。」
「許してくれる気になったんだ?」
「え?」

 一瞬驚いた顔をした桜乃は、すぐにまた元の顔へと戻し、続きを喋り始めた。

「ゆ、許すっていうのも変な感じだけど、そうなるのかな?」
「そんなことはなんでもいいよ。それよりさ、今日一緒に帰んない?」
「ちょちょちょっと待ってリョーマ君!」
「・・・何。」
「あのね、そ、その代わりに、やってほしいことがあるの。・・・いい?」
(・・・へー。)

 桜乃がこんなこと言うなんて珍しいと素直に思う。
 それと同時に、「仲直りの印にキスして。」なんて言うのかとか思ったけど、
すぐに打ち消す。

(・・・桜乃に限ってそんなこと言うわけないし。)

 悟ってきてる自分を情けなく思いながら、さっさと答える。

「別にいいけど?」
「本当?!」
「うん。これ以上アンタと喧嘩してんのヤだし。」

 そう言うと、嬉しそうにしながら鞄の中をごそごそ漁りだす桜乃。
 しばらく待っていると、桜乃は俺にひとつの瓶を差しだした。
 それは、見かけは普通の飲み物に見えるけど、なんというか、
嫌な予感をひしひしと感じる瓶だった。

「はいリョーマ君。これを一気飲みしてね。」
「・・・一気飲み?」
「うん!そうじゃないと駄目なんだって!」

 ・・・ああやっぱり。
 桜乃はまた、乾先輩辺りに言いくるめられたのだ。
 ということは、この瓶の中身は『乾なんとかかんとか』に違いない。
 そう考えてしまって後悔する。・・・中身が分かったら飲みたくなくなるじゃん。
「リョーマ君、飲まないの?」

 心配そうな桜乃が俺の顔を覗き込んできたから、思う。

(・・・ここで倒れたらどうなるんだろ。)

 心配性の桜乃が俺を放っておくわけもないし・・・。
 ・・・つまり。
 桜乃に介護してもらえるってこと・・・だよね。

(・・・・・・・・。)

 俺は、瓶のふたを開けると中身を一気飲みしたのだった。








慰めてほしいと言われたので、
じゅんさんのために書いたリョ桜小話。
この後りょまは先輩方のどアップで目が覚めます。(笑)

一月十日
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