「こっちであってん・・・のか?」
初めてではないにしろ、初めて訪れたと言ってもいいぐらいの土地で、俺は周りをきょろきょろと見回した。 行けども行けども、この前チビスケと見た景色は見つけられない。 というか、似たような場所ばかりで、進んでいるのかいないのかさえよく分からない。 「・・・もしかして俺、迷った?」 そう言えばあっちの友人が、『日本は狭い上に似たような建物が多いから迷子になるなよ』とかってチャカしてきたっけな・・・。 (冗談っぽかったから軽く流したら、今度は『お前は能天気だから問題ないか。』なんて言われちまったけどな。) その言葉に自分でも納得しちまう程能天気な俺といえども、今日から嫌でも通う場所(親父は学び舎とか言ってたっけ?)に行く道で迷ってしまうと、能天気ではいられなかった。 (どうすっかな・・・。) 一応目的地への地図を思い出そうとするがやっぱり思い出せず、さてじゃあ誰かに聞くかとあたりを見回す。 「あの〜…。」 「ん?」 死角から控えめな声で呼び止められて、声の主を見つめた。 青春学園の制服とやらを着た、やたら長い三つ編みをたらしたその女の子は、気弱そうな外見に反して、俺をしっかりと見つめ返してきた。 「もしかして青春学園に用があったり・・・します?」 優しい声で語りかけてくるその子をよく見てみれば、さっきそこらへんですれ違った子だと脳が理解した。 「あー!さっきどっかですれ違った子か!」 いきなり大声を上げた俺に驚いたのか、彼女は心なしか怯えた目を向けてきた。 それには当然気付いたが、今は一分一秒でも早く青春学園に行きたい俺は気付かぬ振りをして陽気な声色で話しかけた。 「そうそう。そのまさかでさ、俺、青春学園ってとこに用があんだ。君、見たとこそこの生徒だよね?良かったら案内してよ。」 か弱そうな女の子は俺の言葉にびくびくしながらも、首をこくんと縦に振った。 日記で書いたものに大量加筆してみました。
「ところでさ。」 いささか緊張している、俺の隣を歩いている嬢ちゃんにそう話しかける。 とたんにびくつく彼女に、少し歩いて緊張が抜けるまで話しかけないようにしようと思ったことは徒労だったなと思う。 「嬢ちゃんってチビスケの知り合い?」 びくつくのを止めてきょとんとした目で俺を見返してくる嬢ちゃんの目は、綺麗だった。 「ちびすけ・・・?」 「あ。」 そういえばこれは越前家でしか通用しないんだったなと思い、チビスケの名前を思い出そうとする。 ・・・ずっとチビスケって呼んでるから、覚えてねぇんだよな、名前。 「もしかして、リョーマくんのことですか?」 「あ、そうそう!それだ、それ!」 彼女から出た名前に過剰な反応をしてしまい、あ、と後悔した。 だが、予想に反して、嬢ちゃんはにこにこと笑っている。 「・・・よく俺がチビ・・・リョーマの知り合いだって分かったな。」 笑っている彼女を不思議に思って質問をした俺に、彼女はチビスケでいいですよ、と笑みを濃くしながら言った。 「似てますから。リョーマ・・・チビスケ君に。」 今度は俺が笑う番だった。 よくチビスケにアメリカっぽい笑い方だと評される笑い方で景気よく笑い続ける俺に、嬢ちゃんは顔を段々赤に染めていく。 「い・・・、いいって!リョーマ君で!」 「え、で、でも・・・。」 「チビスケでいいって言ったからって、嬢ちゃんまで俺に合わせなくってもいいんだよ。」 少しずつ笑いをおさめながらそう言ってやると、まだ納得してないながらも、女の子はさっきと同じように首をこくんと動かした。 リョーガって桜乃ちゃんのことなんて呼ぶんでしょうね?
「へー。チビスケがきっかけだったんだ。」 「はい。リョーマ君がテニスをしてる姿を見て、綺麗だなって・・・。そう思って、テニスを始めたんです。」 彼女がラケットを持っていたことから発展した話。 彼女に対してなんとなくイラつく気持ちが何故か俺の中にはあるが、最初はびくいてばかりいた彼女が、今、俺の隣でこうやって笑ってくれているということが、それを上回った。 「リョーガさんはどんなきっかけでテニスを?」 リョーマ君でいいと言った後、彼女に名前を聞かれた。 そうしてやっと自分が名乗っていないことを知って驚いたが、驚きと同時に高揚感が湧き上がってくるのを感じていた。 今、あの時と同じような高揚感を感じていた。 そう、まるでテニスで強敵と対峙している時のような。 「・・・あ!え、えと、え、越前さん・・・?」 「リョーガがいい。」 「・・・へ?!」 「呼び捨て出来ないなら、リョーガさんでいい。つか、チビスケとこんがらがるから、越前さんだけはやめておいてくれる?」 赤面してわたわたしてる彼女に、にっと笑いながらそう言うと、三度こくんと頷いてくれた。 (・・・なんで。) 沈黙を否定だと思ったらしい彼女はリョーガさんと言い直したが。 俺はなんでその呼び方にイラついたのだろう。 二月十一日
「え〜っと…、セイシュンガクエン。ここで合ってる?」 門にかけられた看板に書かれている漢字を読んでそう言うと、彼女は「はい。」と言いながら何度も頷いた。 「あ、あの、すみませんでした。案内するなんて言っておいて迷ってしまって・・・。」 「いや?これたんだから、俺は構わないけど。」 道中、私方向音痴なんですとわざわざ教えてくれた彼女は、案の定迷ってしまった自分を責めているらしく、しゅんとしている。 心のどこかに恥というものもあるのか、赤い顔のままなので、それがどこか面白くて、思わずそんな言葉がでてきてしまう。 ま、そうじゃなくとも彼女を責める気なんて最初からなかったんだけど、さらりとそんなこと言った俺に俺がちょっと驚いた。 「それよりさ、用事があるとか言ってなかったっけ?」 まだぐずぐず謝り続ける彼女を止めたくて思い出したことを口に出せば、彼女はとたんに焦りだし、左右に頭を振り始める。 「テニスコートはあっちだろ?」 「あ!!はい、そうです!あ、ありがとうごさいました!」 お礼の言葉を述べた彼女は、ぺこんとお辞儀してさっさと行ってしまう。 そんな彼女をレイギシラズだとは思わないけど。 なんだか妙に寂しかった。 三月十五日
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