ふりふられ









        その日の裏庭に広がっていたのは、少し先の未来だった。













 彼女の口は、今日何度目かになる拒否の言葉を紡いだ。

 彼女の近くから去っていく男子生徒の背中に写すのは、自分ではなく、
彼をたった今拒絶した彼女。


 第三者から見たあの日の僕等は、きっとこんな風だった。




 左へと引っ張ると、かしゃんと音をたてて窓が閉まる。







 ねぇ、君はどうしてそいつ等を拒むの。


  待って

          待って待って 待って


                                待った。






 その先に、一体何があるというの。



 忘れたらきっと。






 その先に君の幸せがあるよ。










 窓に再び手を掛ける。

 がしゃんと、幾分か乱暴に開けられた窓から下の窓へと影が落下してゆく。


 それが他人の眼にどう映っているかには興味はないけれど、
彼女がどう思ったかは気になった。



「それ、僕の手作りなんだ。」

 あげる、と言う。

 三階から地上へと、声は届けられた。


「・・・バレンタインの、お返しだから。」




 それだけ言って、顔をちらとも見ずに中へと引き込む。





 彼女の顔をまる一日見なかった日。


 広がっていたのは、僕の、ほんの少しだけ先の未来。




 本来なら彼に、彼女に、殺されてもおかしくない僕が彼女にあげるだなんて。



 なんて傑作。




 この衝動は、けれど留まることなどなかった。





 今、彼女の泣きそうな声が、待ってと叫ぶのが聞こえた。
















 待ったその先にある僕の未来は幸せじゃない。




 幸せなんかじゃ、・・・・・・ない。






勘のいいお方はお分かりになったかと思いますが、
ほわいとでぃ企画に載せた小説の別バージョンです。