「ファーストキスの相手って誰?」






ファーストキス物語











 杏の真剣な声が、放課後の教室に響く。

「あ、杏さん、ファファーストキスって・・・!!」
「そ、そうですよ!どうしていきなりそこに飛ぶんですか?!」
「だってさ、『女の子のファーストキスは父親に奪われるものだ』っていうじゃない?
 前から気になってたのよね〜。」

 その台詞に、桜乃と朋香の二人は若干冷静さを取り戻した。
 そして、三人はう〜ん、と考え始める。

「そうかもしれませんが、記憶にはありませんね。」
「やっぱり小さい頃のことは覚えてないかー。」
「あ、でも桜乃のお父さんならやってる気がする!」
「そうかな?」
「絶対そうだって!」
「へー、そんなに娘ラブなお父さんなんだ?」
「そう!すごいんですよ!」
「じゃあ桜乃ちゃんがお嫁に行く時は大変だろうねー・・・。」
「お嫁って・・・!」

 再び赤くなってしまった桜乃の様子をしばらく見ていた朋香は、杏に振り返った。

「でも杏さんの場合はお父さんというよりお兄さんに奪われてそう!」
「そう言われれば・・・。そういう可能性もあるかも。」

 言われた杏は、至極真面目にそう答えてくる。

「お父さんよりお兄ちゃんの方が私を構ってくれるし、小さい頃のことを思い出すと
 決まって兄さんが隣にいるからね。」
「・・・そういうのっていいですね。」
「うん。そうしていられる人がいるって羨ましいかも。」
「ふふ。お兄ちゃんは私の自慢だから。」
「あー!私もお兄ちゃん欲しいなー!」
「朋ちゃんには弟さんがいるじゃない。」
「そうですけどー!あいつら世話ばっかかけるんですもん!聞いて下さいよ・・・」

 朋香の弟達の話をいくつか聞いて、なんとなく教室内が静かになったタイミングで、
桜乃がぽつりと疑問を口にした。

「でも男の子はお母さんがファーストキスだったりしないのかな?」


「そう言われてみれば・・・。」

 杏と朋香がゆっくりと顔を見合わす。

「そうだよ!男の子のファーストキスは誰が奪うの?!」
「そういう話はないから分かんないよね!」
「お母さんていうのはちょっと確率低そうですよね?!」
「私もそう思う!狙い目は保育士さんあたりじゃない?」
「十分ありうると思いますけど、それじゃあ職権乱用ですよ〜!」
「あ、あの、二人とも・・・?」

 発言者である桜乃をおいて、朋香と杏の『男子のファーストキス談義』は
益々ヒートアップしていく。

「じゃあもっと身近な人で考えてみません?リョーマ様とか!!」
「越前くんかー。難しい人選んだね。」
「難しいですか?」
「うん。私越前くんのことよく知らないしね。」
「あ、そうですよね。じゃあ桜乃はどう思う?」
「え?・・・っと、そうだな〜。」

 二人についてけないと判断した桜乃は、二人の会話をぼーっと聞いていただけだったので、
話を振られてから懸命に頭を動かした。
 そしてひとつの答えにたどりついた桜乃は、両手の手のひらをぽんと合わせた。




「カルピンちゃんだよ、きっと。」
「・・・カルピンって誰?」



(そうである可能性がないとは言い切れないけどさ・・・。)


 リョーマの愛猫の名を知らない杏に説明している桜乃を見ながら、朋香は改めて彼女の
天然さをひしひしと感じたのであった。





とある日の、三人娘の会話。

杏ちゃんはね、青学に行くっていう桔平兄ちゃんについてきたんですよ。
なにはともあれお雛様の日にアルバム発売した三人に・・・

おめでとう御座います!!




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