笑って?






 君の笑顔は力をくれるよ。

  だから ―――










「おはよう桜乃!」

 そう元気に挨拶してくれる親友に、笑みを返す。

「おはよう朋ちゃん。」
「うん!やっぱり桜乃にそう言ってもらわないと朝がきたって感じしないわよねー!」

 にこにこ笑っている朋ちゃんを見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。
 だから私も笑っていたら、朋ちゃんがにたりと笑った。

「・・・なぁ〜んかあったわね桜乃。」
「え?」
「いつもの倍嬉しそうな顔してる。」

 この前からかってくれたお返しとばかりににやっと口を歪ませる朋ちゃん。

「朋ちゃんだっていつもの三倍くらい楽しそうな顔してるよ?」

 二人一斉に吹き出して。

「昼放課にね。」
「うん。」

 二人だけの約束を交わす。






「ふ、ふ、ふふふ不二・・・もご」

 学校中に響き渡りそうなほど大きな声で叫びそうになる朋ちゃんの口を
慌てて塞ぐ。

「と、朋ちゃん〜!」

 必死にそう訴える中、朋ちゃんの息苦しそうな表情を見てまた慌てて手を離す。

「ぷはあっ!!」
「ご、ごめんなさい朋ちゃん!!」

 何度も頭を下げると、なんとか呼吸を整えた朋ちゃんが、いいからと早口で言った。

ふっ・・・!・・・不二先輩と付き合うことになった…ってホントなの?」
「う、うん・・・。」
「・・・さすが不二先輩、告白も迅速かつスマートね。」

 私から告白してその答えとして告白された(?)というのが真実だけど、
そうすると菊丸先輩とのことも聞かれそうなので、あえて訂正しないでおく。

 訂正しないのは隠そうとしているわけじゃなく、
なんとなく言わない方がいいと思っているから。

 今は。


「桜乃はどうしてOKしたのよ?」
「え?えーっと…。不二先輩のことが好きだから、としか言いようがない気がする。」
「そりゃあ好きじゃなきゃ付き合いはしないと思うけど・・・。」

 朋ちゃんは驚いてしまっていて、思うように喋ることが出来ないみたいだった。

「自覚したのはつい最近なの。」
「つい最近っていつ頃のことを指すのよ?」
「・・・・・・二日ぐらい前?」
「それって私をからかってくれた日じゃない?」

 ふてくされた様にそう言った朋ちゃんにごめん、と謝る。

「あの時朋ちゃんにそう言ったから自覚したっていうか。」
「はあ?」

 私の言葉に、朋ちゃんは思いっ切り訳がわからないという顔をした。
 漫画だったら理解不能という文字を背中にしょってそう・・・。

「ごめん。もうちょっと分かりやすい言い方してくれない?」

 自分の思ったことを頭の中で整理しながら、少しづつ言葉を紡ぐ。

「今考えてみたら、私は朋ちゃんに『好きな人はいない』って言う前から不二先輩の
 ことが好きだったんじゃないかって思う。・・・多分、気持ちに向き合うのが怖くて、
 ずっと先送りにしてたんだよ。」

 朋ちゃんがうんって頷いてくれる。

「でもあの日の夜、ちゃんと自分の気持ちに向き合おうって決めたの。
 そうしたら初めて不二先輩のことが好きなんだって、素直に思えた。」


「・・・あーあ。」

 そう呟いた朋ちゃんは肩を落とした。

「なんだかんだ言って、桜乃って強いよねー。」
「そんなことないよ。」


 そんなことないの。だって。


「だって、私が自分の気持ちに向き合おうって思えたのは、
 朋ちゃんが勇気をくれたおかげなんだよ?」
「桜乃・・・。」
「だから、朋ちゃんの力になれるように、私頑張るから!」

 本人を前に、こぶしを作って力説してしまう。
 朋ちゃんは椅子から立ち上がり、窓際に寄った。

「ここって、結構穴場よね。」

 朋ちゃんが言うとおり、眼下にテニスコートが見下ろせるのに埃っぽいと生徒から
倦厭されている第二音楽室は穴場だと思う。

「こんなところ見つけられる私達って、結構運良いよね。」
「うん。」
「よっし!この調子で恋人もゲットよ!!」
「うん!朋ちゃんなら絶対大丈夫だよ!」

 まかせといて!なんて胸を張る朋ちゃんは、なんだかとっても頼もしい。

「お弁当食べ終わったし、教室に戻ろっか。」
「そうだね。」

 次は朋ちゃんの嫌いな古典だよ、なんて言いながら扉を開けても、
帰ろうと言い出した朋ちゃんは動こうとしなかった。
 不思議に思って声をかけようとした時に朋ちゃんが顔を上げたので、
なんとなく口をつぐんでしまった。

「・・・さっき私の力になりたいって、言ってたけどさ。」

 急に話が戻ったので、ぴんとこなくてまともな返事をかえすことも
出来ない私にかまうことなく言葉は続けられた。

「桜乃は笑ってくれるだけで私に力をくれてるんだからね?!」





「それだけ!早く教室戻ろう!」

 叫びつつ横を通っていった朋ちゃんに、一瞬遅れてついていく。
 その顔が赤いのは、きっと寒いからってだけじゃない。


 私の笑顔で頑張れる。


 そう思ってくれる人が二人もいてくれるから、私は笑える。

 笑顔でいられる。


 だから、あなたも。





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