手を繋いで






 それを渡されたときにもうちょっと考えて返事をするべきだったと、今にして思う。
 けど、その時の彼女はきっと彼女のことを良く思ってない人でも可愛いと
思ってしまうほど可愛いもので。
 彼女の親友だって、その場にいたら彼女をぎゅって抱きしめていたはず。
 結果として僕は、自身に降りかかる不幸なんてこれっぽっちも頭に過ぎなかったから
あっさりとOKしてしまったのだ。

 その所為で今こんなに後悔しているのだけれど。









 遠くで、本当に遠くで、誰かしらの叫び声が聞こえる。
 でもそんなことに少しも感心を持てない程、僕は弱っていた。

「・・・大丈夫ですか?」

 僕の上から、彼女の心配そうな声が聞こえてくる。
 それに手を振ることで返事を返しながら、心の奥底から後から後から
湧き上がってくる不快感に耐える。

「ごめんなさい。私がこんな場所に誘わなければこんなことにはならなかったのに・・・。」

 ほとんど涙声になってしまっている彼女の頭に、手をぽすんと置く。

「最初に話さなかった僕がいけないんだから、そんなに気にしないで。ね?」
「・・・で、でもっ!」

 ベンチから起き上がれないから確かめられないけど、多分、彼女は今涙を零している。
 でももう僕には彼女にかける言葉を探す力がないので、無言のまま彼女の頭を撫でた。

「・・・!せ、先輩?!」

 僕の腕は、もう彼女の頭を撫でる余力も残していないようだ。
 だんだん闇が濃くなってきている。

「先輩・・・。」

 彼女が落ち着いてきているのが、なんとか分かる。
 そんな僕の感覚が鈍ってきた腕に、持ち上げられるような感覚。
 その感覚がとても気持ち良くて、僕はそのまま意識を失っていった。








 すやすやと眠る彼を見つめ、私は安堵の溜め息をついた。

(良かった・・・。さっきより大分顔色がいい。)

 空いているほうの手で彼の髪を掻き揚げると、
先輩なはずの彼が、自分より幼い気がした。
 普段はとても大人っぽい人だから、いつもとは違う意味で胸が高鳴ってしまって。

(こ、こんな時に何考えてるの!!)

 思わず顔をぶるぶると振ってしまってから、今どういう状況だったか思い出し、
慌てて動きを止めた。
 そっと様子を窺うと、彼はぐっすりと眠っていて、今日二回目の安堵の溜め息をついた。

『最初に話さなかった僕がいけないんだから、そんなに気にしないで。ね?』

(・・・先輩はそう言ってくれたけれど。)

 たとえ本人に否定されたとしても、やっぱり自分に非があると思う。
 だから、少しでも力になりたい。

(怖かった時に、先輩にこうしてもらえて安心出来たから・・・。)



 ――― どうか先輩が元気になりますように。

 そう願いつつ、先輩と繋がっている手に、ほんの少し力をこめた。










「心配させてごめんね?もう大丈夫だよ。」
「本当ですか?無理してません?」
「桜乃ちゃんじゃないから無理してないよ。」
「・・・・・・それを先輩が言いますか。」
「ごめん。」
「・・・それにしても、どうして『クレイジー・ヒュー』だけは駄目なんでしょうね?」
「さあ・・・。そういう体質なのかもしれないね。」
「体質ですか?」
「うん。なんていうか・・・『長距離型』と『短距離型』みたいな感じ?」
「それなら分かります。・・・なんとなくだけど。」
「なんとなくでもいいんじゃない?こういうのは。」
「ですね。」
「・・・今度また来ようか。」
「え?!」
「だってなんか悔しいし。」
「で、でもまた今回のように倒れたりしたら・・・!!」
「・・・そうだね。じゃあ観覧車に乗ろうか。」
「・・・はい!」





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