彼のジャージ






「どうして上手くいかないんでしょう・・・。」

 テンテンテン・・・と転がっていくテニスボールを見ながら、竜崎桜乃は呟いた。
 そんな彼女に何か言いかけた周助は、結局はその口を閉じてしまった。
 頑張ってという言葉では桜乃を元気付けることは出来ないと判断した結果だろう。

 けれど不二は、最近想いを通じ合えた彼女をなんとか励ましてあげたかった。

「桜乃ちゃん。」
「・・・はい?」

 振り返ってくれた桜乃に、不二は満面の笑みを浮かべて言った。

「僕のジャージ着てみる?」

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。

「はい?」
「あ、今日使うって言われたから持ってきたのに、
 結局使わなかったから洗い立てで綺麗だし、安心していいよ?」
「あの、そうじゃなくて・・・。」
「違うの?」

 飽くまで自分のペースを崩さない不二に、いつもは突っ込まれてばかりいる
桜乃がつっこむ。(つっこみとしては弱いが。)

 桜乃は、不二の方をちらちら見ながら困ったように口を開けたり閉じたりした。
 どうやら不二に何か言いたいのだが、言ってしまっていいものかと思案中らしい。
 まあ桜乃が不二に言うのを待っていたら皆さんを退屈させてしまうので、
桜乃が何を言いたいかということをてっとりばやく説明してしまうと。

 なんでここでジャージがでてくるのかってことだ。


「強くなった気がするでしょう?」

 桜乃の気持ちを読んだかの如く(いや多分読んだ)タイミングでそう発言した不二に、
言われた方はどきりとした。

「はい?!・・・って、誰がですか?」
「この場合は誰になるのかな。」

 不二は少し考え込んだ後、桜乃に優しく微笑んだ。

「僕等のジャージってさ、『青学レギュラーの証』でしょ?
 これって、青学テニス部に入部した人なら誰でも欲しいと熱望するものなんだ。」

 不二の意図は分からなかったが、桜乃はそれでも静かに声を聞く。

「毎月行われるランキング戦を制して輝いている者の下に、
 青学テニス部員達がいるんだ。
 ・・・だからモノにした僕等も、その想いに答えなくてはいけないと、そう僕は思ってる。」
「このジャージは、先輩の力の源みたいなものなんですね。」
「・・・え?」
「ち、違いますか?」
「うん。・・・ちょっと違う。」


 だって僕の一番の力の源は君だもの。


 またもやちょっとしたパニック状態を起こしている彼女に、
ちょっと悪戯っぽい笑顔を見せながら、不二は呟く。

「えっ?あ、あの、そのっ。」

 全身を更に赤くさせた彼女を見て、不二はちょっと赤くなった顔で笑った。





戻る >>