クラスの誰かがそう言ったのは本当にただの偶然で。
 選ばれたのが僕と紗依だったのも、本当にただの偶然だったに違いない。





 ちょっと前まで落ち着かない様子で視線をさ迷わせていた紗依が、うわぁと喜んでいるのかなんなのか分からない声をあげる。
 ・・・とは思ったものの、学ランの袖を摘まんでみたり、腕をぱたぱた振ってみたりている彼女は、誰がどう見たって喜んでいるようにしか見えないんだけど。

「お姉ちゃん、何がそんなに楽しいの?」

 紗依があまりにも嬉しそうだから、不思議に思って聞いてみる。
 すると紗依は、きょとんとした表情で僕を見つめた後頬を軽く赤に染めた。

「そ、そんなに嬉しそうだった?」
「うん、ものすごく。」

 力強く頷きながら肯定すれば、ますます頬が赤く染められていく。
 恥ずかしそうに頬に手をやる仕草がまた可愛いくて、お姉ちゃんて可愛いねって声に出して言おうとする。
 けれどその前に、紗依の口が動いた。

 「ね、用ちゃんてやっぱり私とは違うんだね。」

 微笑む彼女の口から出た言葉を聞いたとたん、胸がずきりと痛む。
 でかかっていた言葉が一瞬で消えうせ、代わりとばかりに、痛みと共に新しい言葉がせりあがってくる。


(ねぇ、それはやっぱり、僕は男としてみてもらえていないということ?)


 言いたいけれど言えない問いが、体の中をぐるぐると駆け巡る。
 それがなんだか気持ち悪くて、折角二人きりだというのに、気分が急降下していくのがはっきり分かる。

(ああ、それでも。)


 紗依が僕だけに喋りかけてくれていることが嬉しい。





残酷な彼女が、それでも