負けないからね。



「ねぇ心。」
「ん、なんだ用。」
「お姉ちゃんって可愛いよね。」

 隣から、ぶほっという汚い音が聞えてくる。
 心が団子を喉に詰まらせて噎(む)せたのだ。

「げほっ!がふっ!・・・ごほっ!」
「ばーか。」

 苦しそうに咳をしている心を冷めた目で見ながら、そう言ってやる。
 馬鹿心は、隣に置いてあるお茶を飲めばすぐにでも治まるというのに、
そんな簡単なことに気付かず今も尚苦しそうに咳をしている。

(・・・それとも。)

 近くにお茶があることに気付いているけど、
お姉ちゃんが用意してくれたお茶だから口を付けたくないのだろうか。

「が・・・っ!・・・・・・ぐっ、ごっほ!」
「・・・・・・・・・はー。」

 まだいきおいよく咳き込んでいる姿を見て、
こいつ絶対お茶の存在に気付いてないなと確信する。

(・・・勘ぐり損か。)

 心がそんなに器用じゃないと分かっていたのにあんなこと考えた僕が馬鹿だったよ。

 危うく口から出そうになったその言葉は胸にしまい、湯のみを手渡してやる。
 すると、心はそれの中身を一気にがぶ飲みして、荒い息を吐いた。

「・・・あー、死ぬかと思った。」
「ばーか。馬鹿心。」

 肩で息をしつつ安堵の表情を浮かべている心を見てたらなんだか腹が立ったので、
さっきと同じ台詞で罵ってやると、途端に食って掛かられた。

「ば・・・っ!馬鹿ってなぁ、そもそもお前がおかしなこと言うから・・・」
「お姉ちゃんが可愛いってことはおかしなことなの?」

 むかむかとした気分のまま揚げ足を取ると、
相手は見事におねえちゃんという単語につられて顔を真っ赤にさせた。

「・・・むかつく。」

 言い返す言葉がすべてどもり始めた心を睨みつつ、素直な気持ちを吐露する。

 こんなヘタレはよくて、なんで僕は恋愛対象外なんだよ。

「へ?なんか言ったか用?」
「べっつに!」
「べっつに!・・・じゃないだろお前!
 なにか言いたことがあるなら男らしくはっきり言えよ!」

 その言葉そっくりそのまま返したいんだけど、と言ってしまえばすっきりするが、
そうすれば強力なライバルを増やしてしまうことになるので、
代わりに宣戦布告してやる。


「ヘタレな心なんかにはぜーったい負けないからね。」







またまた用心棒学園設定。