兜の功名?



 不知火用三郎は目に見えて不機嫌だった。
 原因は、心達が用三郎に無理矢理被せていった紙製の兜にある。
 加えて今の用三郎は、前が見えていない。
 それは、用三郎が立ち上がろうとしたとたん兜がずるりと落ちてきて、
目を隠してしまったせいである。
 被せられた兜は、用三郎の頭にはいささか大きいらしい。
 用三郎が不機嫌な理由には当然その点も含まれているが、
新聞紙ではなくまっさらな紙で作られているという点も、彼の心を刺激した。
 それになにより、諸悪の根源を怒りに任せてびりびりに引き裂けないことが
用三郎を一番イライラさせていた。

(なーにが『今日は子供の日、つまり用ちゃんの日だな』だ。
 今のうちに子供時代を満喫しろとかもっともらしいことも言ってたけど、
 自分達の暇潰しに僕をつかってるだけじゃないか。)

 イライラしながらこの出来事について思考を巡らせるうちに、
被せた奴等に報復するという選択肢が抜けていたことに用三郎は気付いた。

(なんで気付かなかったんだ。)

 自分を心中でそう叱咤した用三郎は、
思い立ったが吉日というように、心達を殴りに行くため腰をあげた。

「用ちゃん?」

 可愛らしい声が用三郎の名を呼んだのは、それとほぼ同時だった。
 声の主は、すべての元凶である兜の作成者、紗依。
 用三郎(と心達)の片想い人である。
 紗依の存在に気付いた用三郎は、出来うる限りなんでもないような顔をつくると、
ずり落ちていた兜を上へあげた。

「やっぱり用ちゃんだ。」

 合っているという自信がなかったのか、少し不安そうな声でこう言った彼女は、
用三郎と目が合うとふわりと微笑んだ。
 その笑顔が今は自分だけのものだということに、彼は少しの幸せを感じた。

「お姉ちゃん、一体こんなところで何してるの?」
「用ちゃんこそ。」

 紗依は微笑んだまま用三郎のすぐ側に座った。
 用三郎も自然、再び腰を下ろすことになる。
 兜は当然というように再びずり落ちて、彼の視界を奪う。
 それに少しむっとしたが、紗依の前なので黙って耐えていると、
横からのびてきた紗依の手が兜をそっと動かした。
 紗依はそのまま兜から視線を外さない。
 彼女があまりにも熱心に見つめているものだから、
不思議に思った用三郎が声をかけると、紗依はごめんねと言った。

「これ私が作った兜かなぁって考えてたの。」
「え?ああ、心達はそう言ってたけど。」
「そうなの?・・・良かった。」
「良かった?」
「昨日ね、心さん達に兜を作って欲しいって頼まれて作ったんだけど、
 誰も被ってなかったからどこにいったのかなって思ってたの。」

 そう言い終えた後、彼女は心底安心したように笑った。

 もしかしたら捨てられてしまったかもしれないと、不安だったのかもしれない。
 
 用三郎はふとそんな考えを浮かべ、複雑な気分になった。
 自分にとって嫌なことが、彼女にとっては良いことなんて。

(でもそれなら、)

 彼女の笑顔を見られるのなら兜を被るのも悪くないかもしれないと、
嬉しそうな顔をしている紗依を見ながら用三郎はこっそり思った。







カレンダーの絵柄(五月)が可愛くてつい・・・。
あ、これは誰ED後でもないです。
初姫の体に紗依がいて、皆もそれを知っているという。
(え、何このダブルヒロインにとってバッドな世界は。)