■ ずるい。



「大体ねー、サスケくんってヘタレなのよー。」
「・・・・・・・・・。」
「その割りにエラそうだし。」
「・・・・・・・・・。」
「無口だし、むっつりだし。」
「・・・・・・・・・。」
「何か言えばー?」

 そう言っても、ただ、不機嫌そうな顔して私の顔を見つめるだけ。
 何か言われるより居心地が悪い。
 絶対に悟られないようにしているけど、内心では少し困惑している。

「・・・いの。」

 サスケくんの、変声期を直前に控えた、けれど、幼馴染よりは低い声が、
二人きりの教室に響いたような気がした。

 たった一言。

 もう、それだけで。


「・・・ずるいわよ。」
「ああ・・・。」



 修行のし過ぎでがさがさになってしまった手が、とても愛おしかった。



2004/7/9
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■ 帰り道



 演習場に響く鉄と木が接触する音に反応する。
 こんな時間に練習なんてする酔狂は誰だろうか。
 ・・・どーせあのヘタレが練習してるんだろうから、考えたって無駄かもね。

(しょうがないかー。)

 家の方向に向かっていた足を止め、右斜め100度くらいに曲がる。
 その拍子に枝がめきめきいったことを、
年頃の乙女として聞かなかったことになど出来はしない。
 今夜から、ダイエット開始しなくては。


 ダイエットしなくてはいけなくなった理由として一昨日サクラ達と食べたケーキを
あげたところで、音のしていた演習場へと辿り着く。

 現場を見て溜め息を付いてしまう。

(何回見ても慣れないわー…。)

 取り合えず、さんばら撒きになっているクナイや手裏剣を集め、
中央付近で大の字になって寝ているヘタレ、もとい、サスケくんの近くに置く。
 今のサスケくんを見たら、きゃーきゃー鬱陶しいあいつらはどんな顔をするのだろうか。
 是非とも拝んでみたい。

(そんなめんどーなことしないけどさ。)

 武器のついでに、今日から始めるダイエットのために食べれなくなったお菓子を
サスケくんのお腹の上に置いて、来たときに使った枝に再び飛び乗る。

「残したりしたら許さないからー。」

 残したのなら、ジャーマンスープレックスだけじゃ許さない。
 聞こえてなかったとしても、私には関係ない。

 明日のことを考えるとわくわくしてきた私は、急いで家に帰ったのだった。



2004/7/18
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■ 複雑な



 元気良く教室の扉を開けて入ってきたいのに一瞬視線を走らせると、
どうでもいいとばかりに視線を反対側へと顔ごと移動させた。
 俺の態度にいののオーラが変わったことに気付くが、
攻撃されないのでそのまま放っておく。

「おはようってばよ!」
「あ、おはよーナルト。今日は一段と元気ねー。」

 あいつが来たとたんにこにこし始めるいのにいらいらしながらも、
俺は動かなかった。
 いや、動けなかった。

 こんな時、自分が恨めしい。


「・・・うるさい。」

 隣の席でニヤニヤ笑っているシカマルを一括して、早くサクラが来ることを一心に願った。



2004/7/25
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■ 堂々(学園ぱられる)



「ねー。・・・ねー、猪乃ってば!」
「なによー。うっさいわねー。」

 無視したというのになおも食い下がってくる桜に、
根負けした猪乃が面倒臭そうに返事をする。
 ぐさっと自分作の卵焼きに箸をいきおいよく刺し不機嫌さをアピールするが、
桜は気付いてるクセにそれにはかまわず質問を口にする。

「あんた達って付き合ってるのよねぇ、ちゃんと。」
「・・・・・・は?」
「だーかーらー!!山中猪乃と団扇佐助くんよ!」
「・・・あー。」

 やっと思い当たった、とばかりに口に含んだままだった卵焼きを
再び咀嚼し始めた猪乃を見て、桜はさっきまで保っていたいきおいを急激に失う。

「『あー』って何よ『あー』って!」
「あーはあーでしょー。大体、『付き合う』ってどういうことをそう定義するのよ?」
「告白されて告白して、恋人同士になったことを続けることじゃない!」
「じゃあ紅先生と阿須間は付き合ってないの?」

 この二人は『告白してないけど周囲公認の恋人同士』として有名である。
 どれだけ有名かというと、
学園祭で『ベストカップル 大人部門』でぶっちぎり一位になるくらいだ。
 猪乃の反撃に、桜はなんだかよく分からないことを口にしつつ口をもごもごさせた。

「それに、ちゃんとって何?付き合うのにちゃんとも何もないんじゃない?」
「そ、それは・・・。」

 止めとばかりに言われた台詞に、今度こそ桜は口を閉じた。
 閉じてしまったから、騒ぎながら弁当を食べているクラスメート達の中で、
猪乃と桜だけは静かに、ただ黙々と箸を進める。

「・・・ここら辺だけ暗いな。」
「あ、佐助くん!」

 猪乃の後ろにいつの間にか立っていた佐助を見て、
桜が周囲にハートを飛ばしてそうな声を出した。
 彼氏が出来たにも関わらず未だに佐助好きな桜をちらりと見た猪乃は、
食べ終わった弁当をさっさときんちゃく袋にしまい、パックジュースにストローを刺した。
 そんな猪乃を見て桜は不満げな顔になるが、佐助はただじっと猪乃を見ていた。
 佐助の視線に気付いた猪乃が、上を向く形で佐助を見、
飲んでいたジュースのストローから口を離した。

「・・・欲しいのー?」

 その言葉に、少しも躊躇することなく佐助が頷く。
 そして、猪乃によって少し上に移動させられたジュースのパックを、
未だに上を向いたままの彼女の手ごと包み、ストローに口を付けた。

 それは、後ろから抱きしめて手にキスしているようにも見える体制で。

 喉が二・三回動いた後、ご馳走様と言われながら彼の口から離れたストローを、
彼女も躊躇せず口に含む。
 満足したのか、佐助は教室から出て行ってしまうが、猪乃は見向きもしない。
 いつの間にか佐助と猪乃に釘付けになってしんとなってしまっている教室に、
ジュースを啜(すす)る音だけが響く。

「・・・・・・あ、無くなっちゃったー。」


 猪乃からそんな能天気な声が出るまで、誰からも言葉は出なかった。



2004/8/28
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■ 門(学園ぱられる)



「・・・何してんのー。」

 いささか無愛想な声が、夕焼け色に染められた校門に響く。
 相手と幾分か距離をおきながら、少女は少年に問うた。

「・・・・・・壁に寄りかかってる。」
「見ればわかるわー。」

 少女の返答に、少年が眉を顰(ひそ)める。

「私が言いたいのは、転校してっちゃうアンタが、ここで何をしてるのかってことよー。」

 少女は、表情を少しも変えずに言い切る。
 少年は、眉を先程より顰めた。

「アンタって、最後まで私のこと理解してくれないのねー。」

 やはり、少女は表情を変えない。
 変わりに少年は、足を少女の方へと進め、少女の近くに立った。

「ついでに。・・・やっぱりふったのね、あの子を。」

 少年は何も言わずに少女の体を引き寄せ、抱きしめた。
 それでも少女は、少年の答えを聞いたのだ。

 そして、二人は分かれた。


 少女は、普通の転校だったら良かったのにとは言わずに。

 少年は、ずっと傍にいたかったのにとは言えずに。



2004/12/8
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