贈りグセは直らない





 あ、これシャーネに似合いそうだな。

 待ち合わせ場所に向かう途中、ふらりと立ち寄った商店街の店先に飾ってある服に視線がとまる。
 そして女性用であるその服に、当然のように待ち合わせ相手を思い浮かべて思う。

(これ、シャーネに似合いそうだ。)

 改めて見直してみても、やっぱりシャーネに似合うとしか考えられない。
 そう思ったら是非とも彼女に着てもらいたくなって、すぐさま店へと足を進める。
 が、しかし。

(・・・やべ。)

 俺は扉の約四歩手前というなんとも中途半端なところで動きを止め、立ち尽くした。
 シャーネとの約束を思い出したからだ。


 シャーネが俺のプロポーズを受け入れてくれたあの日を境に(もしかしたらシャーネに会ったあの日からかもしれないが)、俺は物をシャーネを基準に見てしまうようになった。

 シャーネにはこっちの色が似合う。
 シャーネにならこのデザインの方が似合う。
 シャーネには。シャーネになら。

 だから似合うと思ったものはすぐさま買ってシャーネにプレゼントしていたのだが、ある時彼女にしこたま怒られた。

『プレゼントは嬉しいけど、もったいないからこんなにはいらない。』

 言っていることが分からなくて困惑している俺に、シャーネは困ったような怒ったような顔を向けた。

『今までプレゼントと呼べるようなものは父さんからしかもらったことはなかったから、プレゼント自体はとても嬉しい。けれど、こんなにもらっても私にはすべてをきちんと使うことは出来ない。だから、こんなにはいらない。』

 彼女の言いたいことは理解したが納得は出来なくて、俺は俺のためにシャーネにプレゼントしているようなものだから遠慮はいらないと、使えなくてもいいのだと伝えた。
 けれど真面目な彼女は決して首を縦には振らず、その上こんなことまで言い出してしまった。

『もう一生分のプレゼントはもらったから、この先プレゼントはいらない。』

 俺にしてみれば、この先一生シャーネにプレゼントできないなんてそんなのは冗談じゃなかった。
 なんというか、俺にとってシャーネにプレゼントすることはもう人生の一部になっていたからだ。
 しかし、シャーネが喜ばないものをプレゼントしてもつまらないのもまた事実。
 困った俺は、色々考えた上で妥協案をだした。


(・・・今度プレゼントを贈るのは彼女がこれが欲しいと言った時、か。)

 俺が何も主張しなければこの先ずっと贈らなくていいということになってしまうところだった約束を心の中で呟き、踵を返す。
 これが欲しいと言ったことのなかった彼女は、予想通り、約束してから今日までこれが欲しいと言ったことは一度もない。
 俺的にはものすごく不満だ。
 だが、シャーネとの約束を破ることは出来ない。

(しかたないよな・・・。)

 約束の重みで未練を無理矢理打ち消して、俺は待ち合わせの場所へと急いだのだった。