その状態を見た人達は、口にはしないが一様にこう思ったことだろう。



   ―――― なんでそんな恰好してんの?






「大佐って、そんな趣味もってたんですね。」
「・・・この状態を見て言うことはそれだけかね。」

 煙草を銜(くわ)えたまま飄々と言ってくるハボックに、毛を逆なでながら、
感情を押し殺した声で大佐が応える。

「と、言われましても、普通に考えたらそうとしか・・・おー、あったかい。」
「どこが普通だ!・・・おい、やたらと触るな!」
「それはそうと、事の顛末をお聞かせ願えますか。」

 まだ大佐を構いたそうにしているハボックを後ろに押しのけて、
ホークアイ中尉が説明を求めてくる。

「事の顛末というほどのものではないが、説明するとだな・・・」

 ようやくハボックの手から逃げ体制を立て直したロイ・マスタング大佐は、
一度咳払いをした後、本当にたいしたことない説明をゆっくりと話し始めた。


 椅子に座るなり寝てしまったこと。
 起きたら既にこうなってしまっていたこと。
 変な物を食べたり、変な行動をしたりした記憶はないこと。
 今日会ったのは、彼の部下であるリザ・ホークアイ中尉、ジャン・ハボック小尉、
エドワード・エルリックとその弟兼保護者のアルフォンス・エルリックの四人であること。
 昨日最後に会ったのは中尉であること。



「ふーん。大佐が自分でやったとかじゃないんだ。」
「・・・君は私が故意にこんなことする人間だと思っているのかね鋼の。」

 話を聞き終えた後、あまり気にしていなさそうな声でエドが出した意見に、
イラついているらしい大佐がくってかかるが、言った本人は欠伸をかみころしている。
 多分、まだ寝ていたかったのに弟に引きずってこられたのだろう。

「いや?大佐って恰好付けたがってるからこんなことしないと思ってるけど。」
「・・・・・・他の錬金術師の仕業という可能性もあるが、
 それよりはウイルスとか薬品の可能性の方が高いかもしれんな。」
「では大佐、至急検査室へ。」
「うむ。・・・って、言ってるそばから私の耳を触るな馬鹿ども!」
「だって大佐、目の前にふわふわもこもこなものがあったら触りたくなるのが
 心情ってモンでしょー?」
「それはお前だけだ!」
「つかさ。大佐が俺より小さいってのが嬉しいよな〜。」
「そんなところで喜ぶな!」
「大佐、可愛いですね〜。」
「ちっとも嬉しくない!」

 うっとりと呟くハボック、ガキ大将の顔で大笑いをしているエド、
心底嬉しそうに笑っている(ように見える)アルに、律義にもツッコミをいれている大佐。
 それを遠目に見ながら、ホークアイ中尉はこう思った。

(元に戻るまでは「ロイ・マスニャング」と呼ぶことにしましょう。)


 その目線の先には、黒い猫耳と猫尻尾の毛を総立ちにさせて、
自分より五倍は大きいエド達を叱っているマスタング、
いや、マスニャング大佐の姿があった。

 『ロイ・マスニャング』

 中尉に広める気はなくとも、
近日中には皆当然の様に口にするようになっていることだろう。

 憐れ、大佐。