ところでと、今までの流れを断ち切るように喋りだしたラックに、一斉にその場にいた者の意識が集中する。

「ク・・・葡萄酒(ヴィーノ)さんはその婚約者さんと同棲しているのですか?」

 別にこれは特に重要な質問というわけでも前から気になっていたことでもなく、ただ急に、ほんのちょっと聞きたくなったことだった。
 はじめから相手がどう答えるか大体分かっているような、わざわざ問う必要もない問い。

「いや?」

 しかしラックの問いには、その場にいる誰もが予想しなかった答えが返された。

「ま、マジかよクレア?!」
「フェリックスだ。」

 しばしの沈黙の後、三人はほぼ同時に椅子から立ち上がった。
 そしてすぐに三人を代表してベルガが葡萄酒ことフェリックス・ウォーケンことクレア・スタンフィールドに確認をいれるが、クレアはどうでもいいことに突っ込みをいれるだけで、否定も肯定もしなかった。
 だが彼の様子を見る限り、同棲していないというのは冗談ではなさそうだ。

「・・・クレアが同棲してないなんて。」
「だからフェリックスだって言ってるだろ。つーかそんな驚くことか?」
「そりゃあ驚きますよ。あのフィーロでさえも同棲してるんですから。」

 今はこの酒場にいない幼馴染みの名をあげ、ラックがそれがどんなに予想外のことか説明する。
 が、クレア自身は特に表情を変えることなくそういやそんなこと言ってたかと呟くと、椅子に座り直した。

「フィーロの事情はよくわかんねーけど、俺の場合はまだ婚約したってだけだし、第一シャーネの親父さんに許してもらったわけでもねーし。だから同棲はちゃんと結婚した後の方がいいと思って我慢してるわけ。」
「・・・クレアがまともっぽいこと言ってやがる。」
「フェリックスだ。何度言えば分かるんだよてめーは。」

 何度訂正してもクレアと呼んでしまうベルガに、クレアがとうとう拳を振るった。
 ベルガもそれに拳で応戦し始めたので店の真ん中で喧嘩が始まってしまうが、二人をキースはどこか微笑ましそうに見守っているだけだ。
 ラックも初めは喧嘩を始めた二人を呆れたように、けれどどこか嬉しそうに眺めていたが、ふとある考えを思い浮かべ顔を少しひきつらせた。
 そして、まさかなという少しの希望をのせて、ベルガとの喧嘩に一応の区切りをつけたらしいクレアに、出来るだけ冷静に声をかけた。

「ク…葡萄酒。もしかしてデートの時待ち合わせしたいから同棲しない、・・・とか考えてるわけじゃないですよね?」
「というかラック、お前も結婚したくなったのか?」
「誰もそんなこと言ってないでしょう。」

 彼らしいといえば彼らしい、誤魔化したともとれる質問を投げかけられたラックは即座にそれを否定し、これはもしかすると図星だったのかもしれないと心中で溜息をついた。




くだらないといえばくだらない