彼から私へかけられる言葉は、謝罪の言葉ばかりだ。
「毎度毎度すまねぇなお妙さん。」 「いいえ。」 どうせこの馬鹿上司のことで頭がいっぱいなのだろうとあたりをつけ、謝罪の言葉を口にした彼にわざと簡素な言葉で応える。 「でももうちょっと手加減してやってくんねぇか。」 「あら、自業自得だと思うのだけれど。」 「そうだけどよ。」 こっちの予想通り、不快な思いなど1ミリもしていないのだろう。 まったく普段どおりの顔のまま、彼が床に突っ伏して動かない上司に困ったような視線を送りながら頭をがしがしと掻く。 ――― その姿を後何回見れば、私に気付いてくれますか? 彼が上司を引き起こそうと背を向けた瞬間、心の深い場所から強くてやっかいな願いがひょっこりと顔を出す。 恐らく叶う日がくることはない、小さな願い。 「目が覚めたらキツく叱っとくから。」 上司を背負って店の外へと出て行く彼に続けば、そんなことを告げられる。 暗に、だからちょっとでも優しくしてやってくれと言っているのだろう。 (・・・冗談じゃない。) 最初のうちこそ何十倍もの皮肉を返していたが、最近はそんな余力もない。 適当に気の籠っていない返事をすると、彼は微かに苦笑した。 もしかしたら、そう言ったところで素直に聞く女じゃないと分かっているのかもしれない。 「じゃあ。」 もしかしたら。もしかしたら。 自分勝手な妄想を頭の中で反芻させながら、営業スマイルで闇の中に吸い込まれていく彼を見送った。 土方×妙(銀魂)
なんでこんな最低男だったんだろうと、ソファーに寝そべりながらジャンプを読んでいる人に目線をむけて思う。 (私だったらこんな糖尿病男じゃなくて、もっと良い男をゲット出来るはずなのに。) 本気で思うのだけれど、この男の側に私以外の女が立っているのを想像するのも、自分の側にこの男以外の男が立っているのを想像するのも本気で嫌だった。 (・・・腹立つわね本当に!) グースカとイビキをかき始めた男の腹を思いきり蹴れば、ぐえと蛙のような声が上がった。 銀妙(銀魂)
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