少年は自分の名を呼ぶ声が聞こえたような気がして、廊下の真ん中で足を止め、辺りを見回した。
 しかし、近くに人影はない。

「蘭丸君!」

 呼んでいた人物は、どうやら彼の死角にいたらしい。
 真後ろから名を呼ばれて、彼の体は小さく跳ねた。
 同時に、今は彼の目の前に立っている彼女は形の良い眉を少し下げる。

「ごめんなさいね。驚かすつもりはなかったの。」
「いえ、気にしないでください。」

 彼がそう言うと、彼女は少し微笑み手を差し出した。
 彼が反射的に出してしまった手の平に、紫色をした小さな包みが乗せられる。

「先の戦、蘭丸君すごく活躍したじゃない?それは私からの、ささやかなご褒美みたいなものよ。」
「えっ?」
「上総の介様を守ってくれて、ありがとう。」

 少年に何か問いたそうな視線を向けられ、彼女は彼に包みを渡した理由を説明した。
 けれど、少年はそれでは納得できないでいた。
 彼が懸命に働いたのは、主君である信長に認めてもらいたいがためであるし、大体、部下が上司を守ることは当たり前のことだからだ。

「これで好きなものでも買ってね。」

 蘭丸と呼ばれた少年は未だに納得していないが、彼女は話は終わったとばかりに彼に背を向けてこの場を去っていく。
 その姿はとても優雅だったが、少年にはそのことに気付く余裕はなく、彼が気付いた時には彼女の姿は米粒のように小さくなっていた。

「・・・・・・あーあ。」

 お礼と質問を言えなかったことを悔やみ、少年は小さく溜息を吐いた。



濃姫+蘭丸(戦国BASARA)
2006/9/6
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 微かな気配を感じて、幸村は筆を動かしていた手をぴたりと止めた。

「して、越後の様子はどうだった?」

 幸村が上に向け声を掛けると、天井の一角に音もなく穴があき、そこから黒い何かが落ちてきた。

 ―――― 人、猿飛佐助だ。

 佐助は音もたてず畳に着地すると、幸村にぴたりと目を合わせてから声を出した。
 彼の声が常の飄々としたものでないのは、けして疲労のせいだけではない。

「あのねぇ旦那、俺じゃないかもしれないのに容易くそういうことを口にしないでくれる?」
「しかし、こう問いかけなくては聞けないではないか。」

 至極真面目に自分の言っていることと微妙に違うことを述べる幸村を前に、佐助は遠慮なく大きい溜息を吐いた。
 佐助だって幸村の素直な性格は好ましく思っているが、戦が関われば素直さは弱点になるわけで。
 武田軍の命運がかかっていることを簡単に口走られてはたまったものではない。

「あのねぇ、俺の言ってることはそういうことじゃなくて――…」
「例えば先の台詞を聞いていたのが越後の忍であったならどうするつもりだったのか、と言いたいのであろう。」

 先回りをされて、目を丸くした佐助が幸村を凝視する。
 そんな視線を受けている幸村も、先程とまったく同じ顔で彼に視線をおくっている。

「俺だって、そんなことぐらい解かっておる。」

 甘くみるでないと言わんばかりの表情で未だに呆けた顔をしている部下を一睨みした幸村が、顔ごとぷいと横を向く。
 そんな、言っていることや行動はまだ子供臭さが抜けていない幸村を、やっといつもの調子が戻ってきた佐助はじっと観察した。

「そっか。」
「・・・・・・うむ。」

 旦那も成長したもんだねぇ。

 と親みたいな感想を抱いたことは心の奥底にしまいつつ、短い言葉で了解の意を伝えると、幸村はやっと少し笑った。
 それを見た佐助もしばらく笑っていたが、段々と考え込んでいるような顔つきになり、しまいには沈黙してしまった。

「佐助?」

 佐助の様子がおかしいことに気付いた幸村が声をかけると、佐助がゆっくりと顔を上げた。

「あのさぁ旦那、解かってんならどうして軽々しく口にしたのさ?」

 説教をする必要がないと理解したら、今度は疑問が湧き上がってきてしまったらしい。
 眉を顰めつつ質問してくる彼に、幸村が心底不思議そうな顔をしたまま質問を返す。

「何故佐助にそんな気遣いをせねばならぬのだ?」



幸村+佐助(戦国BASARA)
2006/9/11
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 ふと(そうふと!)片思いしている相手は中と外には差があると、私は考えた。
 だってアイツは意外と熱血漢なのだ。
 ・・・熱血してるところなんて見たことないけど。

 でも。

 でも、アイツの眼の中では常に『何か』が煮えたぎっている。
 その『何か』は凝固した血みたいにどす黒くて、いつかアイツを飲み込んでしまいそうだ。

 だから目が離せなくなった。

 ただそれだけのことなのだ。



佐助×猪乃(NARUTO)
2006/9/26
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