今日何度目かになるため息をはいたハンナは、責めるような視線を隣へと送った。
 しかし送られた本人は気付いていないフリをして、目の前にある宝石を手にとったりしながらあーでもないこーでもないとぶつぶつ呟いている。
 そんな彼に聞えるようにまたため息をつくと、ハンナは視線を首ごと移動させた。
 こうでもしないと彼に文句を言いたくなってしまう。

(別に、ルディとこうやってお買い物をするのは嫌じゃないんだけどな。)

 むしろ何回だってしたくなるほど好きなことだ。
 けれど、締め切りが今日だと知った上で買い物を楽しめるほどハンナの神経は図太くはできていなかった。
 反対に、仕事を頼まれた本人はけろっとした顔で買い物を楽しんでいるが。
 その神経が信じられなくてじっとルディを見つめれば、今度はこちらに振り返ってにこっと邪気のなさそうな笑顔を向けてくる。

(うう・・・。)

 裏で何か悪いことを企んでいることを知っているのに彼の笑顔に胸を高鳴らせてしまうことが情けなくて、ハンナは赤くなった顔を下げた。
 そう、彼は今日が締め切りだと知ったハンナがやきもきすることを見越してここに連れて来たに違いない。

 ――― なんて意地の悪い!

 何度心の中で叫び、何度踵を返して家に帰ろうとしただろうか。
 でも結局ルディをおいて帰ることなんて出来なくて、彼の背中を見ながらただ待っていることしか出来ないでいる。
 こうなると、仕事のことなどこれっぽっちも考えてないルディが羨ましくなってきて、今までとは違う意味でため息をつきたくなった。




段々彼に染まっていく。