これは、竜崎桜乃が氷帝学園の生徒である世界のお話です。















































マネージャー論。 イントロダクション



「はぁ・・・。やっぱり広いなぁ、ここ。」

 今溜息をついた彼女の名は、竜崎桜乃。
 この春超お金持ち学校と言われる氷帝学園中等部に入学して一ヶ月程経ったばかりの、
三つ編みが似合う、ちょっとどじな新一年生。
 成績も運動神経も特に秀でたところがない桜乃には、ちょっと困った性質(?)があります。

 それは、方向音痴。

 だから氷帝が狭くても、桜乃が迷うことは約束された未来なのです。
 彼女自身も悲しいかなそれを自覚しているため、普段なら友達と一緒に行動するのですが、
今日に限ってやっと出来た友達はお休みで、しかも忘れ物を取りに戻ってしまったため、
周りにはクラスメートさえいません。

(うえ〜ん・・・。音楽室ってどこ?)

 心の中で弱音を吐きながらも、どこかに校内案内図はないかと懸命に探します。
 すると、都合のいいことにすぐ近くにあった校内案内図を発見しました。
 桜乃にはここ一番という時の運は備わっているようです。
 案内図が見つかったことで浮かれてしまった桜乃は、うっかり手の力を緩めてしまいました。

  どさ・・・

 案の定、音楽の教科書は床に落ちてしまったので、
桜乃は急いで散らばったものを集め始めました。

(は、恥ずかしい・・・!け、けど、今の誰も見てないよね!)

 そうしてすべて集め終わった後、アルトリコーダーがないことに気付いた桜乃は、
きょろきょろと視線をさ迷わせました。

(リコーダー・・・。リコーダー・・・。あ、あった!)

 運が良いのか悪いのか、桜乃のアルトリコーダーは、正に今階段を落ちるという時に
持ち主に発見されました。
 そして、発見されてすぐ、アルトリコーダーは桜乃の手の中に納められました。

「よ・・・、良かったぁ・・・。」

 桜乃が落とさなかったことに安堵しかけた、その時です。

「・・・・・っつ!」

 運悪く階段を上がっていた誰かが、悲鳴になっていない悲鳴を上げました。
 それを見ている桜乃はなんでそうなったのか分からず、ただただ呆然としていたのですが、
被害者が手に持っているものを見て、自分の失態に気がつきました。

 アルトリコーダーを拾うことのみに一生懸命になってしまった桜乃は、
その腕の中にあった教科書を放り投げてしまっていたのです。

 階段の中腹辺りで、手に取った教科書を見つつ、静かに、しかし明らかに怒っている人物に、
桜乃は駆け寄ります。

「あ、あのっ!大丈夫ですか?!お、お怪我は・・・?!」

 教科書を頭で受け取ってしまった人物は少年でした。
 少年はその教科書の持ち主が女の子だと分かると、幾分か怒りオーラを和らげました。

「・・・今度からは気をつけろ。」
「・・・は、はい!すみませんでした!」

 桜乃の手にぽすんと教科書を乗せると、少年は桜乃の横を通っていきます。
 桜乃は暫くその少年を見送った後、授業のことを思い出し、案内図の方へと駆け寄りました。

「う、う〜んと・・・。」

 『現在位置』と指された場所と自分の周りを見比べてみても、
地図がどこを差しているのか分からず、桜乃は首を捻りました。

(わ、私ってそんなに馬鹿なのかな・・・?!)

 考え込み始めてしまった桜乃は気付いていませんが、さっき去ったはずの少年が、
彼女に近付いてきました。

「・・・おい。」
「きゃ?!」
「・・・・・・・・。」
「・・・あ。度々すみません!」

 耳を塞いでいる少年の表情を見て、桜乃がまたぺこぺこと頭を下げます。
 しかし少年は、またもやそんなことどうでもいいとでも言いたげな顔をし、じっと案内図を見ました。

「・・・お前、一年生だろ?」
「あ、は、はい!」
「どこ行くつもりだったんだ?」
「え、えっと、音楽室です。」

 はあと溜め息を付く少年に何も言うことが出来なくて、桜乃はおろおろするばかりです。

「・・・こっちだ。」
「え・・・?」
「音楽室に行きたいんだろ。」
「・・・・あ、ありがとうございます!!」
「・・ついでだ。」

 少年に促され、桜乃はとてとてと少年の後ろを歩きます。

「・・・それと。」
「は、はい?」
「さっきお前が見てた案内図は、増改築される以前のものだから、
 見ても意味がない。」
「ええ・・・?!」

 少年の言葉に、運良く見つけた案内図がまるで役に立たないものだったなんて、
と、桜乃は少し悲しくなりました。

(・・・あの案内図、早く直すように言っておかないとな。)

 その頃、そんな桜乃の前を歩いている見た目とは違い心優しい少年は、
律儀でもあるらしく、生徒会役員でもないのにそんなことを考えていました。



(それにしても・・・。)

 桜乃に気付かれないように彼女を見て、少年は溜め息を付きたくなりました。
 それもその筈。よく見ればこの少女、なかなか可愛い容姿をしています。
 それ自体はなんら問題はないのですが、彼の頭は嫌な予感でいっぱいです。

(変なことに巻き込まれなきゃいいけど・・・。)




 個性が強い部活の面々を脳内に描きながら、何故かその予感が的中しそうな予感がして、
少年は体を震わせたのでした。






ようやく始まりました、桜乃ちゃん氷帝マネージャー話。
なんだかとっても長くなりそうな予感がします・・・ね。
天狼が書いたへぼい文章でよければ、お付き合いよろしくお願いしますv

至さん、こんなのでいいのでしょうか?(どきどき・・・)




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