* 一足飛び


「おいしいです!」
「だろ?」

 滅多にとれない休日。
 いつもならただぐーたらして過ごす日に、今んトコ『同じ会社の同僚』なだけっぽい
竜崎桜乃を家に呼んでみた。
 俺ん家に来た時、桜乃はなんで家なんですかとか言って慌ててたが、
俺のお手製のパスタを出してやったら、言ってたことを忘れてしまったかのように
上機嫌になった。

「このソース、どうやって作ったんですか?」
「トマトを裏ごししたりとかして作った。」
「・・・それじゃ分かりません。」
「詳しいことは企業秘密。」

 教えてやんねーと付け足せば、予想通り頬を膨らませて怒る桜乃に笑いながら、
わざと顔を近づけて囁く。

「そんなに知りたいんだったら、俺が作ってるとこ見てればいいんだよ。」
「え?いいんですか?」

 俺が企業秘密だとか言ったもんだから相当気になったのだろう。
 桜乃はたちまち笑顔を全開にして、うきうきとした様子ではしゃぐ。
 だが、そんな無防備な姿は易々と見せていいもんじゃないんだぜ?

 ――― 特に、男の部屋で二人きりの時はな。

 すでに料理のことで頭がいっぱいになっている桜乃は、
俺との距離があまりないことに気付いていない。
 そんな彼女に、わざと意地の悪ぃ笑顔を作って話しかける。

「その代わり、次いつ作んのかなんて分かんねーから、
 終始俺の側にいなきゃなんねーけどな。」
「・・・お願いしたら作ってくれないんですか?」
(・・・おい。)

 これはこれで可愛くていい(よく考えてみれば甘えてる桜乃はレアだし)んだが、
俺の返して欲しい言葉とは違う言葉を返してきた桜乃に拍子抜けして、頬杖をつく。

「あのな、いい加減気付けよ。」
「はい・・・?」
「俺今さ、プロポーズしてんだけど。」
「え・・・・・・・・・。ええええええ?!」
(・・・やっぱ気付いてなかったか。)

 椅子をひっくり返しそうになってわたわたしている桜乃に手を貸しながら、
こっそりと溜息をつく。
 こいつを好きになってすぐ、こういうことは気長にやらないといけないだろうとは
推測していたが、まさかこんなに鈍いだなんて想像してなかった。
 だから作戦変更。
 攻めて攻めて攻めまくってやる。

「プププロポーズだなんて、付き合ってもいないのに・・・!」
「俺は付き合ってるつもりでいたけど?」
「リョ、リョーガさんの行動は全部遠まわしすぎなんですっ!」

 真っ赤になって必死で叫んでいるのを見て、わざと余裕なフリ。

「そぉか?」
「そうですよ!」
「でも前のオンナは気付いたぜ?」

 最後とばかりに意図的に前付き合っていたヤツのことを話題に出せば、
周りの空気があっさり変わっていく。

「・・・前付き合ってたヒトは、ここで、こうやって食べたんですか?」
「いーや?ここにこうやって案内したのも、手料理食わせてやったのも、
 桜乃が初めてだけど?」
「え・・・?」

 丸くした目で俺を見つめてきた桜乃の頬が、だんだんと赤に染まってゆく。

「俺の本気、わかってくれた?」

 茶化したようにそう言えば、桜乃ははにかむように笑った。










どうやら桜乃と龍牙は同じ会社に勤務している模様。
多分先輩・後輩ですよ。(桜乃ちゃんが何故か先輩)

2005.08.25
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―




* 休日


 珍しく早起きしてしまった日。
 その日は社員を蟻の様に扱ってる会社がただの平社員にくれた、
貴重な休日だった。
 そんな日に早起きしてしまった自分を恨めしく思うが、
しかし何故か二度寝も出来なかったので諦めて起きることにする。

(あー・・・、てことは、あいつも休みだよな。)

 顔を洗っている最中にふと思い出したあいつの姿に、
会いたいという欲求がどんどん膨らんでいく。
 服に着替え、携帯に手を伸ばし、リダイアルの一番上の人物に電話をかける。
 すぐに相手は気付いたらしく、「もしもし」という言葉が三秒ほどで聞えてきた。

「あのさ、昼、一緒に食わねぇ?」

 名前も言わずその台詞だけを言えば、あいつがふわりと笑った気配がした。


『いいですよ。どこで待ち合わせましょうか?』



 その言葉で、今日が幸せな休日になることを確信した。










『一足飛び』の前。
龍牙さんなにやら企み中・・・でもないような。

2005.08.24
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


戻る