3.散らばる過去のピース






脳の奥で銀色の光がチカチカと思考を焼いていく。


『もういいのよ、戻っていらっしゃい』


『今日こそ捕まえてやるぞ』


『私たちと一緒に暮らしましょう』


『完全に包囲したぞ、今日こそ大人しく・・・』











『        英二っ!!        』








『         お兄ちゃんっ!!        』











そして爆炎が襲った。
はっと英二は目を開ける。
眩しさに目が慣れるまでの間、漠然と記憶を整理する。

(どこからどこまでが夢?現実はなに?)

意識が散らばって上手くいかない。
リアルでいて、どこか作り物めいた光景だった。
町・人・誰かの声。
覚えているのに、思い出せない。
ぼうっとしていると頭をコツンと叩かれた。
覗き込んだ見慣れた顔に、安堵の息を吐く。

「そっか・・・爆炎に」
「ああ。皆とははぐれてしまった」
「そっか」
「英二?大丈夫か?」

大石の心配そうな声音に、「なんでもないよ」と返す。
起き上がるのが億劫だった。

「で、ここってどこ?」

辺りをぐるっと見回して英二はもっともな問いを口にした。
しかし、大石は答えを口にせず、肩を竦めてみせる。

「とにかく、合流するかカルピンに帰るかしないと」
「こういう時合図打ち上げられたらいいんだけど・・・にゃう〜」

手元に打ち上げ用の閃光はあるが、もちろんそんなことをすればどこかに潜んでいる敵にも
居場所を教えることになるのだ。
「手っ取り早いのに」と英二が唸る。
その姿は項垂れた猫そのものだが、
大石はその台詞を心の中だけに留めて英二に手を貸して立たせた。

「太陽があっちにあるから、この方向に進めば都のはずだ」

大石が指した方を見遣る。

「うん、オッケ。大石は怪我とか平気?」
「ああ、なんとかね」

くすっと笑って二人は歩き出した。
木ばかりで代わり映えのしない景色だが、これだけの緑に囲まれるのは久しぶりだ。
空を駆ける鳥の羽音が不安を呼ぶ気がする。
先刻見た夢がフラッシュバックしていく。
黙々と歩きながら、英二はちらっと前を歩く大石の背中を見る。

「あのさ、大石」
「ん?なんだ?」

心のどこかであの夢は現実だと、警鐘が鳴っている。

「大石が俺を見つけた事故ってさ・・・・・・爆発だった?」
「・・・・・・」

生い茂った草が露を含んで布の上からじわじわと染み込むのがなんとも言えず気持ち悪かった。
沈黙は自分が気を取られたせいなのか、大石が躊躇っているからなのか分からない。
だがそれも一瞬のことだ。

「どうしたんだいきなり」
「うん、夢見ちゃって。誰かが俺に向かって話してるんだ。優しい声もしたし、恐い声もした。
 気付いたら爆発が起こって・・・。
 すごくリアルで懐かしいような。でも、さっきの爆発のせいかも」
「そうだな。混合したのかも知れない。ごめん、俺は倒れてる英二を見つけただけだし。
 知らない、ごめん」
「ううん、俺の夢だと思うし、俺の方こそ変な事言った。気にしないでにゃ」

振り返りはしないけど、背中から大石が気落ちしていることが分かって、
英二は慌ててぶんぶん首を振ると殊更明るく言ってのけた。
しかし、心の中で普段ならこういう時大石は振り向いて励ましてくれるはずなのに、
と思いついて苦笑してしまう。

(これじゃ完璧に甘えっこじゃん)

今の状況が状況なんだから、と自分を戒めるために頬を両手で叩く。
派手な音ではなかったけれど驚いて大石が振り替えるのに、「えへへ」と笑うだけで誤魔化して、
足を進めるほうに意識を集中した。

しばらくして大石が足を止める。
辺りを伺っているようだ。
首を傾げて英二も耳を澄ましてみる。
と、ガサガサとどこからか草が擦れ合う音が聞こえた。
二人は顔を見合わすと、なるべくしゃがんで音の出所を探る。
音は段々近づいている。
同時に話し声が聞こえてくる。
ぼそぼそとした声は次第にはっきり聞こえた。

「自信満々に進んでるけど本当に合ってるんでしょうね」
「うるせぇ。黙って付いてこい」
「言っとくけど間違ってたら大恥よ。ずーっと語り草にしてやるわ」
「あのなぁ」

英二と大石は肩の力を抜いてくすっと笑い合うと、立ち上がって背後に目を向ける。

「二人共こんなことろで大きな声出してお喋りなんて迂闊すぎるぞ」

完全に姿が見えたところで、声の主達はきょとんとした顔で二人を見た後、
あからさまに安堵の息を吐いていた。










「良かったよ、合流できて」

大石の言葉に、姿を現わした海堂と朋香は激しく同意する。
あれから四人は少しだけ移動して、幹の太い木の根元で小休憩を取っていた。

「他のメンバーはどうなったんすか?」
「うん、それが逸れてしまって、分からないんだ」

お互いの状況確認を始めた大石と海堂の横で、
足を伸ばした朋香と英二が真剣な話を二人に任せて実に気の抜ける話をしている。

「あ〜お腹すいたぁ」

自分のお腹を押さえて呟く朋香にポケットを探った英二が何かを発見して
目の前に差し出してみせた。

「これならあるよん」
「わぁ、飴!腹の足し〜」

嬉しそうに言う朋香の掌に飴を差し出して英二も一つ自分の口に入れた。
ポケットの中には後二つある。
丁度四人分入っていたことに、自分で自分を誉めて甘い味を堪能した。

「おいひー。すごいわ、英二さんのポケット魔法のポケットみたい」

不意に英二の脳裏に誰かの声が浮かんだ。





『しゅごひ、お兄ちゃのポッケ魔法みたいっ!』





はっと英二の動きが止まる。
今のは・・・・・

「英二さん?」
怪訝な顔で見つめてくる朋香に英二はぎこちない笑顔で「なんでもないよ」と返した。

「とにかく、ここで四人になれたのはラッキーだったよ。多分この方向で間違ってない。
 この森は魔物が出ると言うし、皆のことも心配だ。先を急ごう」

決意も新たに立ち上がった時だった。











「他人の心配より、まず自分達の心配をするんだな」








「誰だっ!?」

突如聞こえた声に、鋭く声の方を向く。
太い木の枝に二つの影が佇んでいた。

「いつの間に」

海堂が呻く。

「あれ?俺達の存在に気付いてなかったみたいですよ、宍戸さん」
「はっ、ダセェな、激ダサだな」

四人に睨み付けられても尚悠長に二人はお喋りを続けていた。
いつでも攻撃に移れるよう英二は腰を少しだけ落とす。
進み出ようとした海堂と朋香を制して大石が前に出た。
それに続くように英二も前に出ながら二人に向き直る。

「海堂は龍ちゃんを守ること、これは先輩命令だかんね。OK?」
「あ、はい・・・」

不承不承頷く海堂に少しだけ本気の顔を向ける。

「怪我させたら承知しないかんね」

英二の気配を察して彼はしっかりと頷いてみせる。
それに安心して英二は大石の隣に並ぶ。
彼に任せておけば大丈夫のはずだ。
もう、再び近しい人を失わなくて済む。
確信が疑問を塗りつぶし、英二は自然にそう思っていた。
一歩足を出して大石が二人に向かって叫ぶ。

「誰なんだ、お前達は」

宍戸と呼ばれた短髪の男がニヤリと笑って口を開いた。

「王室特別跡部景吾隊所属宍戸亮」
「同じく鳳長太郎。あなた方を一掃しに来ました」

「王室部隊っ!?」

涼しげに答える二人に、大石は唖然と口を開いた。






あとがき

えっと、いきなりやっちまいました。
・・・王室特別「跡部景吾」隊!!!!?うわぁ、だって他に隊の名前思い浮ばなかったんですよ〜。
なにはともあれ、四組目はやっぱり英二と大石でした。
そしてもう一つの黄塵の都と言われる(じゅんが言っている)英二編(笑)の謎が
徐々に明かされつつあります。
先に宣言させていただければ、第2部で彼の過去は明らかになります。
誰と本当はどういう繋がりがあるかも。
なので、もうしばしお待ちをっ(焦)
そして、散ったメンバーは一先ずこれで終わりです。
今回の任務は手塚・不二・リョーマ・桜乃・朋香・海堂・英二・大石の八人でした。
乾と河村は別の用事で違うとこ行ってるし、桃ちゃんは今回参加していません。
彼は元々いつでも招集される訳ではないので(杏ちゃんのこともあるし)。

宍戸&長太郎登場です!!
氷帝メンバーまず登場したのはこの二人でしたか(自分でビックリ)
もちろんこれから続々登場する予定なので、よろしくお願いします。
出てきても暖かい目で見守ってやって下さい。特にジロちゃん。

ではでは〜。




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