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「うわっ」

小さく悲鳴を上げて、しかしそれさえも押し込みながら、
リョーマは目の前で悠然と佇む人物を睨んだ。

もとから表情がないせいもあるが、完全な無表情で手塚はリョーマを見下ろしている。

弾き飛ばされながらも、なんとか尻餅だけは付くまいと片膝を地面に置き、相手の隙を探る。


「お前の実力はその程度か?」

「にゃろう・・・」


額から流れた汗を腕で拭って、ふらつく体で立ち上がった。


「はぁっ」


短いかけ声と共に地面を蹴ると、手塚の顔面目掛けて拳を突き出す。

今まで見せていた疲労を感じさせないスピードで放ったものだったが、
状態を軽くずらしただけで、片手で流された。


(っチ!)


逆に、突き出した腕を両手で掴まれて驚いている間に景色が反転する。
気付くと地面に叩き付けられていた。

見えるのは抜けるような一面の青空。

自分の吐く息と心臓の音、それ以外麻痺した頭ではわからない。


(まだ、負けてない)


起き上がろうと腕に力を入れるが、まったく入らなかった。

浮きかかった腕を昂ぶったやるせなさと共に地面に打ち付けた。


「雑念を捨てろ」


静かな声に頭だけそちらを向けるので精一杯だった。

その視線の先、手塚が冷静に自分を見ている。


「お前はもっと強いはずだ。純粋に自分を信じろ」


眼鏡のせいばかりでない光を瞳に写して、手塚は用は終わったとばかりに去って行く。

なにも出来ずに見送って見えなくなると再びゆっくりと息を吐いて天上を仰いだ。


「自分を、ね」


息が整っても起きる気がせずに、リョーマはぼうっと自分の腕を視界の中で掲げてみせる。


「難題じゃん・・・」


力なく腕を下ろすと、目蓋を閉じた。
















木の幹に体を預けて、桜乃は手の中の三つ編みを弄ぶ。


(出るタイミング逃しちゃったな)


幹の向こうに横たわったリョーマを横目で見るが、近付く気になれない。

先までの手塚と彼の手合わせが頭に焼き付いていた。

一方的に始まって一方的に終わったような、そんな手合わせ。

リョーマと同じように青いだけの空を見上げる。


(私のやろうとしてることなんて実際そのままなのかも)


攻撃を仕掛けては手応えもなく風のようにかわされる。

霧に向かって刃物を突き立てているような喪失感。




でも





(後戻りは出来ない)





全てを無くした時から、覚悟はそこにある。


「ごめんなさい。お母様、お兄様」


焦燥感を抑えるように、桜乃は手の中の三つ編みにそっと唇を落とした。








あとがき

桜乃と二人は全く会話してませんね(汗)
サイドストーリー第二段です。次回は朋ちゃんメインです




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