<side1:palace>







 国の中心に聳え立つ巨大な宮殿の一角。

町に目立ち始めた貧しさとは反比例して、青と白を基準にした塗装を煌めかせている。

薔薇が植えられた庭園を、見渡せる回廊に靴音が響く。

何の感慨もない一定音が薔薇の細工の施された扉の前で止まる。

すっと、忍足侑士は胸の前で拳を作った。軽く扉に掲げた瞬間、
ノックする前に扉が軋みを上げて開く。


「相変わらず、便利なんやな」


溜め息ともつかぬ息を吐いて、忍足は扉を開けた張本人に感心の口笛を吹いてみせる。

もちろん、冷やかしで。

見られた方は扉の横に立ち、忍足が入るのを無言でただ待っている。

一瞬だけ、このまま180度方向転換したろうか、という誘惑が浮かぶが、
忍足は寸でのところでその考えを振り落とすことに成功した。

真っ直ぐに向けられている視線を感じたからだ。


「どうした、入ってこねーのか?」


軽く笑うように発せられた声に、忍足も立ち続ける樺地を擦り抜けて室内に足を踏み入れる。

程なくして扉が閉まった音がした。

扉から真っ直ぐに敷かれた真紅の絨毯の先、
壇上に置かれた豪奢な椅子にゆったりと腰掛る少年に目をやった。



「ご苦労だったな」


「ほんまに苦労したわ」


「報告書は読ませてもらったぜ。いたんだってな、焔使いだったか」


少年の、左の目許には印象的な泣き黒子。

そして、少しだけ開いた瞳は危険な色に光っていた。


「そや。強いで」


「そりゃあ・・・」


唇の端を歪ませながら、少年は喉の奥だけで笑う。


「楽しみだな」


ゆっくりと開いた瞳には、強い意志が宿っていた。

その様子に、忍足もふっと息を漏らして笑う。


「それと、報告書に書かんかった事が一つ」


もったいつける物言いに、促すように少年は片眉を上げる。


「あんたの探しとった女に会うたで。・・・桜乃やったか」


「・・・・・」


忍足が挑発するように視線を向けた先、少年の反応が止まる。

しかしそれも一瞬のこと。


「・・・そうか、生きてたか」


顔には克明に表れていないが、全体の纏う雰囲気が変化したことに忍足は気付く。

きょとんとして見てしまったのは、珍しくも彼の空気が優しいものだったからかも知れない。

おやっと思いながらも、少女のことを思い出して、なぜか感慨深気に頷いていた。


「にしてもや、なっがい三つ編みやったで」


「あれの母親がよくしてやってたからな。・・・まだその髪型なのか」


「母親・・・そうか」


少しだけ浮かんだ憂いを立ち上がることで少年は一蹴すると、階段を下る。


「お前まだ王のところには行ってないのか?」


「まあ兎にも角にもまずお前んとこって決めてるしな。
 あのおっさんは勘違いしとるやろうけど、俺らはあんたの部下やろ」


すれ違いながら少年は笑う。


「そう言うな。一応俺の父親だろ」


「跡部っ」


踏み出そうとした足を止めて、跡部景吾は振り替える。

何か言いたそうに訴える忍足の瞳を真正面から受け止めて、
跡部は自分自身でも噛み締める用に言葉を紡いだ。


「まだだ。・・・これからだ。これから楽しくなるところだろうが。
 やっとその兆しが見えたぜ」


「・・・・・跡部」


止めた足を進めて扉に向うと、樺地がそっと扉を開く。


「さぁ、壮大で愚かな茶番劇を始めようじゃないか。アーン?」


やはり無言で差し出されたローブを纏うと、跡部は忍足と樺地を従えながら部屋を後にした。








あとがき

お待たせしました(?)
黄塵の都第二段・・・と言っても「1.5」なんですけどね(笑)
今回からレジスタンスの休日ということでそれぞれの一日を描いていきたいと思います。
中には今後の核心について触れるところもあるので、
勘のいい方はそれぞれの謎にしている関係を解いてしまうんじゃないかしら??

最後に
天狼さん、毎回毎回アップ、それから誤字の多い私のために見直しありがとうございます。
あなたあっての小説です。

桜佳さん、メールありがとうございます。なかなか返事出せなくて申し訳ない。
でも、しっかり読んでますよ!宝です宝。
今回の話も気に入って頂けるといいな。

次回はリョーマメインで手塚、そして(会話しませんが)桜乃の三人が出ます。では。




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